日本を代表する探検家3人が「文藝春秋 電子版」のオンライン番組に出演。探検人生を振り返るとともに、独自の哲学を語り合った。

 出演したのは、探検家・医師の関野吉晴さん、ノンフィクション作家の高野秀行さん、ノンフィクション作家・探検家の角幡唯介さん。

左から関野さん、高野さん、角幡さんの3人が「文藝春秋 電子版」のオンライン番組に出演 ©文藝春秋

角幡さんを悩ませた“雌イヌの発情”

『イラク水滸伝』でドゥマゴ文学賞を受賞したばかりの高野さんは、今年8月にティグリス・ユーフラテス川で川下りをした際のエピソードを語った。

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「ティグリス・ユーフラテス川で川下りをやる人なんかいないので情報がゼロ。地図も大まかなものしかない。何もわからないままでの川下りがけっこう面白かった。ティグリス・ユーフラテス川は人類の文明が生まれた場所。これまでは辺境が好きだから、できるだけ文明から離れた場所に行っていたが、“文明ってなんだろう”と遅まきながら考え始めた」

 一方、犬ぞり探検をグリーンランドで継続している角幡さんは、今年経験した“危機”を明かした。

「村から300kmぐらい離れた地点で、雌イヌの発情が始まってしまった。旅の途中で発情が始まったのは初めて。雄イヌが異常性欲者みたいになり、走っている間に“挿入”することしか考えていない。イヌ同士の喧嘩が起きてしまうので、犬ぞりに混乱が起きる。だから、混乱を鎮めようと絡まった綱を一回外したところで、バーッとイヌがみんな逃げちゃった。さすがに焦った。イヌが戻ってこなければ、ソリを自分で引っ張って帰るしかない」

誘拐が多発する地帯をすり抜けた

 さらに、7月にK2西壁で起きた滑落事故の話題をきっかけに、探検家である3人が探検のリスクについて語り合った。アマゾンの奥地など人類の根源を訪れてきた関野さんは、「僕の場合は命を奪われるとしたら“人”ですね」という。

「南米で言えば、コロンビアの反政府勢力は誘拐がメインビジネス。人質の解放には数億円が必要ですが、交渉が上手くいかなければ人質は殺されてしまう。カネを払わないのに人質が生きたまま解放されると『カネ払わなくてもいいんだ』と世間に思われるから、殺さなくてはいけない。こういう危険な場所を通らなくてはいけないことがあった。誘拐されないためには、目立たず迅速に進む必要がある。しかし、折りたたみのカヤックを運んでいるうえに、川を渡ろうとしてもカヤックはスピードが出ない(笑)。ちなみに、僕が通り過ぎたあとには2人のドイツ人が誘拐されていた」

幾度となく探検を繰り返してきた3人だが、時には危機に直面することも ©文藝春秋

 この他にも、探検家3人が肌身で学んだサバイバル術が語られたほか、最新の探検事情の振り返りから、日常と探検のギャップにまつわる面白エピソードなど話題は多岐にわたった。

「文藝春秋 電子版」では、3人のオンライン番組、「探検家の“プリミティブ”な欲動を語ろう」(55分)、後編「生還率100%の探検家サバイバル術」(38分)を配信している。