昨年、日本将棋連盟の理事に就任した糸谷哲郎八段(37)。運営の舵取りを担いながら、棋界トップクラスの「A級棋士」として活躍している。
今、あえて多忙な理事の道を選んだ真意はどこにあるのか。そして、変革の時を迎えた将棋界の未来をどう見据えているのか――。(全3回の1回目/つづきを読む)
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将棋界への恩義を返したい
――昨年12月10日、福間香奈女流六冠が記者会見を開き、タイトル戦と出産・妊娠にまつわる規定の削除を求めました。この規定は理事就任前の昨年4月に施行されたものでしたが、糸谷八段はどのように受け止めましたか。
糸谷哲郎八段(以下、糸谷) ご心配をおかけして誠に申し訳ありません。12月16日のリリースの通り、1月16日から公式戦番勝負検討委員会が立ち上がりまして、事務局を務めさせていただいております。より皆様にとって良い規定を作るため、精進して参ります。
――十分な議論が尽くされることを期待します。さて、糸谷八段が理事に就任したのは、昨年6月です。理事に立候補された経緯と思いを教えてください。
糸谷 2006年4月にデビューしてプロ20年目になりました。いままで将棋界に恩義がありますので、少しでも返したいと思って立候補しました。
――恩義とは、具体的にどういうことですか。
糸谷 自分をここまで育てていただいた環境です。将棋を指して生活できること自体、当たり前ではありません。そういった世界を先輩方に作っていただいたので、皆様と一緒に後輩に引き継いでいければと思っています。
将棋は娯楽なので、面白いと思う方がいなければ成り立ちません。また思考遊戯を活性化させることは、日本や世界のためにプラスになると信じています。そのために運営に関わろうと思いました。
優勝スピーチで「将棋界は斜陽産業である」
――20年前と言えば、糸谷八段は「将棋界は斜陽産業である。僕たちの世代で立て直す」とおっしゃっていましたね。当時は高校3年生、しかも新人王戦優勝の謝辞で話したのですから、インパクトがありました。あの発言の背景や思いを教えてください。
糸谷 将棋はほかの娯楽、例えばゲームや動画、SNSなどとシェアを分け合う形になっています。今後もますますその数は増えていき、さらに日本の人口減少でパイ自体が小さくなって、競争は激しくなっていくはずです。
古い時代であれば遊戯や娯楽の数が少なかったので、将棋や囲碁はかなり独占していたはずですが、現代はそうではない。今後も将棋界が発展していくために何か施策を打たないと基本的には減る一方という認識が、「斜陽産業」という言葉につながりました。
――多くの娯楽サービスが直面している課題でしょうね。
糸谷 ただ「斜陽産業」は少し語気が強すぎましたね。反省しています(苦笑)。「構造上、厳しい産業である」とかでした。やっぱり若いうちはキャッチーな言葉を使いたがるものですから。




