昨年、日本将棋連盟の理事に就任した糸谷哲郎八段(37)。運営の舵取りを担いながら、棋界トップクラスの「A級棋士」として活躍している。

 将棋界は2010年代前半から「AIとの共生」が大きなテーマになってきた。理事として、そして一人のプレイヤーとして、糸谷八段はどう向き合っているのか?(全3回の2回目/つづきを読む

「ヒューリック将棋会館千駄ヶ谷ビル」のロビーにて。クラウドファンディングなどを活用し、ファンからの支援も得て2024年9月に竣工した ©︎細田忠/文藝春秋

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プレイヤー視点だと「シビアになったと思います」

――2012年から2017年まで、棋士と将棋AIが戦う「電王戦」が行われました。将棋AIが人間を凌駕することがわかり、プロの対局でもAIの影響が年々強まっています。

 棋士が将棋を勉強するのに使うのはもちろんのこと、対局中継や観戦記などでメディア側もわかりやすい指標として活用しています。糸谷八段はプレイヤーと理事の立場からどう受け止めていますか。

糸谷哲郎八段(以下、糸谷) プレイヤー視点だと、シビアになったと思います。かなり考えなければ結論が出なかったものがAIを使えば出やすくなっている状況ですから。逆に真理にはだんだんと近づいているんでしょうね。

 客観的に見れば、AIは人間が将棋を理解するためにありがたいもので、すごく助かってるんじゃないかとは思っています。

 

芸術家タイプの棋士にはつらい時代

――AI発の新手、新構想が増えています。同時に、指されるとすぐに対策をAIで見つけられてしまう。サイクルが早くなり、定跡の進化するスピードが上がっている状況です。

糸谷 芸術家タイプ、つまり将棋の盤上に自分の絵を描きたい人たちにとっては、つらい時代になったかもしれません。新しい形を作る楽しみは少し失われている気もします。自分もつらいと思うほうです。

 とはいえ、いろんなアイデアを出せば逆にAIの助けで成立することもあります。自分も含めて、全体的にたくさん球種を増やす傾向になってきました。

――それは作戦の的を絞らせないように、散らしているということですか。

糸谷 そうですね。ひとつに絞るタイプは、勝っていない時代です。正統派タイプはずっと正統派の作戦を連採して、研究を続ける人が勝ちます。