将棋界が戦わなければいけない相手
――波紋はあったでしょうが、その問題意識は多くの人が共有しているはずです。私は糸谷八段と同じく1988年生まれなので、インターネットの普及によってメディア環境が激変し、娯楽が急速に増えた感覚はよくわかります。
糸谷 我々が小さいころ、パソコンを使ってインターネットをしている人も少なかったはずです。ところが、いまの子どもたちはスマホやタブレットを使ってインターネットを使うのが当たり前になっている。
その中で、将棋はただ見ているだけでは面白いものじゃありません。例えば流行のショート動画だと、野球のホームランやサッカーのスーパーシュートは誰が見てもすごさがすぐにわかるので、非常にマッチしています。しかし、将棋はルールを知っているうえで考えてみないと、そのすごさがわかりづらいです。
――そうですね。バズらせるショート動画を作るなら、どちらかといえば対局の中身よりも「勝負めし」や盤外のエピソードが中心になるでしょうか。でも、それは将棋のゲーム性とは違う魅力ですよね。
糸谷 ショート動画として将棋が消費されるものになっていくか。それとも熟議が失われていく世の中で逆にショート動画で消費できないものとして一石を投じるか。どっちがいいかは悩ましいですよね。
いちばん重要なのは、手軽な時間潰しはスマホでソーシャルゲームとかSNS、動画を楽しむことに入れ替わった世の中で、将棋はそこと競争しなければいけないことです。構造的に厳しい環境の中で、将棋文化をどう維持、また成長させていくのかが問われています。
「子どもにやらせてみたい」と思われる文化に
―――具体的に何から始めればいいと思いますか。
糸谷 私の考えになりますが、まずはルールを知っている人を増やすことです。ルールを知らない人から見たら、将棋の対局を見ても「なんじゃこりゃ」としかいえないと思うんですよ。
――確かにルールを知っているからわかって興味を持つわけですし、たとえ覚えた直後じゃなくても後に興味を持ったときに掘り下げるハードルが低くなります。
糸谷 そうですね。ルールをとりあえず覚えていただくためには、ある程度ポジティブな感じで本人やお子さんの親御さんに将棋に接触していただく必要があります。
――ポジティブとは、具体的にどういうことですか。
糸谷 楽しい、役に立つ。なんでもよいから、前向きにやってみようと思えるかですね。
子どもへの普及を考える場合、親御さんにとっては子どもにやらせてみたいと思える文化かが大事になってきます。例えば、藤井聡太さんや羽生善治さんの印象がよい、日本の伝統文化に触れさせたい、などですね。
自分の実感でいえば、将棋は勉学や集中力をつけるのに役立ちました。そういう効果を目的に将棋をやらせたいでもありがたいです。もちろん将棋が面白い、楽しいがいちばんいいでしょうけど。




