反政府デモで混乱を極めるイラン――トランプ大統領は軍事介入をほのめかすが、中東情勢を正しく理解するには、背景にあるアメリカの地政学的戦略の歴史を読み解く必要がある。『エブリシング・ヒストリーと地政学』が版を重ねるエミン・ユルマズ氏が、非情なパワーポリティクスの実態を描き出す。
(本稿は、前掲書から一部抜粋したものです)
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「お金の流れ」でアメリカの地政学的戦略を読み解く
現在の国際情勢のなかでも、イスラエルがガザで強行する戦争、イランの核開発問題などをめぐる中東情勢は特に読者の関心が高い領域だろう。ここでは、アメリカの地政学的戦略の転換という視点からこの問題に切り込んでおきたい。
中東の歴史的背景は複雑で、イスラエル国内でも決して一枚岩ではなく、ネタニヤフ政権に対して強く反対する人々と、支持勢力とが対立している。
イスラエルの手厚い支援国アメリカにおける親イスラエルロビー、とりわけアメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)は、全米ライフル協会(NRA)に匹敵するパワフルな組織で、ワシントンで絶大な影響力を発揮している。親イスラエル候補に多額の献金をする一方で敵対的な候補者を標的にしてきたが、そもそもアメリカ政府の要職やビジネス界にはイスラエルとアメリカの二重国籍をもつ人が多く、トランプ政権への巨額献金で知られるアデルソンファミリーの人々などが有名だ。実はネタニヤフ首相もかつて米国籍を保有していたが、後に離脱している。
イスラエルはアメリカにとって、いわば中東における“前線基地”のようなものだ。中東で今起こっていることは、今後の米中新冷戦時代を見据えたアメリカの方針転換によるものが大きいと私は見ている。ニュースで流れてくる政治的なパフォーマンスに振り回されず、「お金の流れ」を軸にアメリカの地政学的戦略の歴史を読み解くことが本質的理解につながるだろう。
パーレビ朝のイランはアメリカの同盟国だった
順を追って説明していくが、まずわれわれの思考バイアスを解こう。
中東というと、イラクの独裁者フセイン、「悪の枢軸」イランなどの言葉が独り歩きし、「テロとの戦争」のイメージでイスラム原理主義が蔓延する「過激派の巣窟」として捉えがちだが、1950~1960年代に遡れば、むしろ世俗主義的な国家のほうが多かった。

