明治維新といえば、一般的には「尊王攘夷」や「黒船来航」といった政治的な側面から語られることが多い。だが、新著『エブリシング・ヒストリーと地政学』が話題のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏はマネーの歴史的視点から“ある意外な要因”を指摘する。〈3分で読める〉学校では教えてくれない大人の新ビジネス教養!
(本稿は、「文藝春秋PLUS」(12月15日配信)の動画から一部まとめたものです)
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日本の「レート差」に群がった外国人たち
――エミンさんはお金をめぐる歴史法則として「正しいところにお金が流れないと社会は腐敗する」と指摘されています。新著で大変興味深かったのが「マネタリーシステムの歪みが明治維新を生んだ」という分析で、これは学校の歴史教科書では語られていない視点ですね。
エミン 実は江戸時代末期に、日本はものすごい物価高が起きているんですね。明治維新の20年前からカウントすると物価が約倍になり、国民の不満が大きく高まっていました。
その要因として、19世紀半ばのペリーの黒船来航により江戸幕府が無理やり開国させられて以降、ガラパゴスだった日本の通貨システムがグローバル市場に無防備にさらされたという背景があります。当時の日本の金銀の交換比率は「1対5」で、金1グラムは5グラムの銀と交換できました。一方、海外では金銀の交換比率は「1対15」だったんです。
――そんなに違ったんですね。
エミン そうなると、日本に銀を持ってきて金に交換し海外に持っていけば、レート差で丸儲けです。例えば5gの銀を日本で1gの金と換え、その金を海外で15gの銀に換え、もう1回日本に持ってくれば3gの金になります。これを「アービトラージ」(裁定取引)といいますが、外国人が入ってきてこれが盛んになってしまった。
当然ながら、貴金属を貨幣に使っている日本の国家財政は圧迫され、国内からどんどんお金が消えてゆき、結果的に物価高となります。国民の間で不満が高まり、各地で「ええじゃないか」運動のような騒動も起きるんですね。やっぱりインフレが発生すると、特に食料価格が高騰すれば、世の中が荒れます。
――それは昔もいまも同じですね。
エミン 僕はトルコのようなインフレ国で育ってるんで、20年で物価が倍になるようなことはざらです。でも江戸時代は約300年のあいだ米価格が極めて安定的に推移していて、インフレはそんなに発生してこなかったんです。だから幕末に価格が2倍になったのは日本人にとって大きな衝撃で、これがある意味、明治維新を引き起こしたんじゃないかと僕は見ています。マネタリーシステムの歪みで国家財政が圧迫されてしまったことがトリガーとなった。
――当時鎖国していたからレート差の情報自体がなかったんでしょうか。
エミン それもそうでしょうし、仮に知っていたとしても変えなかったかも知れません。いきなり金銀の交換比率を海外に合わせて1:15にしたら、国内で銀を持ってる人たちが暴れますからね。でも、国家全体の財政を守るには、本当はやらなきゃいけなかったことです。

