一方、後ろのほうの一般乗客が「なにが起こっているのか?」という不思議そうな顔で見ているのも面白い。そしてドアが閉まると、ファンらしき人たちも集まってきてホームはプチパニックになったが、松田聖子は車内からにこやかに手を振って去っていった。
ヤラセ一切なしの「アルフィー犬山事件」
まさに綱渡りである。時代が寛容だったとも言えるが、国鉄(JR)がここまで協力するのもいまとなると信じがたい。
実は松田聖子は、新幹線のホームで歌ったことがほかにもある。そもそも、仕事先から羽田空港に到着して乗っていた飛行機を降りたすぐのところで「青い珊瑚礁」を歌ったのが番組初登場だった。当時の売れっ子ぶりがうかがい知れる。
サプライズのつもりがそうならず、伝説級のハプニングが生まれた中継もある。
1984年12月13日の放送。「恋人達のペイヴメント」で第6位に入ったアルフィーは、愛知県犬山市のファンの家をアポなしで訪れて歌うというサプライズを企てた。ところが、行ってみると当のファンが留守。誰も出ない。
犬も吠え出すなか仕方なくそのまま家の前で歌い始めたが、電気系統のトラブルでカラオケのテープが止まりそうになり、あわててスタッフが手動でテープを回したがうまく再生できず、すべてがグダグダになってしまった。
こうした場合、「サプライズ」とは言いつつ前もって家にはいてもらうようにこっそり交渉していてもよかったはずだ。だがそうしなかった。アルフィーにとってはとんだ災難だったが、見ている側にとっては番組がガチであることの証しでもあった。
一度見たら忘れない演出のクセ
『ザ・ベストテン』の破天荒さは、中継にとどまらない。スタジオで歌う際の演出もなにかと自由だった。毎回曲の世界を引き立たせる美術セットも素晴らしかったが、常識にはまらない驚きの演出、時には意味不明とさえ思える演出も名物になっていた。
田原俊彦の「君に薔薇薔薇…という感じ」では、「薔薇薔薇=バラバラ」という連想で、歌っている田原の胴体がバラバラになるマジックをバックのダンサーたちとともに披露した。胴体を切られながらも手を振りながら歌い続けるトシちゃんに、そばで見ていた黒柳徹子などはあ然となっていた。