「日本側の軍事的ユーザーおよび軍事用途、ならびに日本の軍事力向上に資するその他一切の最終ユーザー・用途への輸出を禁止することを決定」としていることから、「軍事」に直接関係しない抗菌薬の原材料が必ずしもすぐに管理対象になるとは、たしかに断定できない。
しかし、「生物医学的分野における基礎的代謝産物およびその製造技術」を管理対象として挙げていることには注意すべきだ。
つまり法律上、たんなる「化学物質」として扱われる「発酵中間体」だが、先方の解釈で該当すると認識されれば、これも管理対象となってしまうのである。
ご存じのとおり、抗菌薬は感染症の治療や手術には必須の薬剤である。
この薬剤の製造に欠かせない「発酵中間体」がほぼ中国に完全依存状態である現実があると言ったら、いかに楽観的な人でも、思わず黙ってしまうのではないか。
2019年の「セファゾリンショック」をご存じの方もいるだろう。
これは中国にある原薬製造工場で、製造過程に異物が混入。さらに、当時の中国政府による環境規制強化のあおりを受け、工場が操業停止に追い込まれた事案である。
当時、日本国内で流通していたセファゾリンの原薬の大部分をこの1社に依存していたため、代替ルートがなく、供給が完全にストップしてしまったのだ。
日本のセファゾリン供給の約6割を担っていた製薬会社が製品回収と供給停止を発表。
一気に国内シェアの過半数が消滅した。
「国産で賄えるから心配ない」の甘さ
全国の大病院で緊急性の低い手術が相次いで延期となるだけでなく、セファゾリンで事足りる感染症にまで、より広範囲に効く抗菌剤を使わざるを得ないという、耐性菌発生リスク(※)を引き起こしかねない薬剤選択が現場では余儀なくされた。
※筆者註:抗菌薬はなんでも広範囲に効く(強い)ものを使えばいいというものではない。これらの薬剤はいわば「最終兵器」のため、日常的に使いすぎるとこれらに効かない細菌(耐性菌)を発生させ、いざというときに最後の手段を失ってしまうのである。