「そんな非人道的な制裁をすれば、中国は国際的批判の的になるはずだ」という声もあろう。

しかし今回中国が狙い撃ちにしようとしているのは、完成した錠剤や注射剤という「医薬品」ではない。その一歩手前、化学合成の「心臓部」にあたる発酵中間体だ。

「これは人道的な医薬品ではなく、多目的(デュアルユース)な工業用化学物質である」

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中国商務部はこのような口実で、国際的な人道批判をかわしながら、日本に圧力を仕掛けることも可能なのである。

なぜ「品目」を明示しないのか

さらに過激にすすめば、高市首相が「台湾有事」に言及したこととからめて、「日本に送る発酵中間体は、有事の際に自衛隊員の外傷治療や手術をするための薬剤製造に使われる、すなわち中国の安全を脅かす軍事利用だ」という解釈をされてしまうことも可能だ。

つまり「あえて品目を具体的に明示しない」という戦略は、「いつでも、どの薬の原料でも、われわれのさじ加減一つで止められる」という全権掌握の宣言に他ならないとも言えるのである。

今回の危機について「国産できるから大丈夫」と言い、普段から「中国は信用できない」と叫んでいる人たちが「軍事以外のものは対象外のはず」などと、中国に絶大の信頼を寄せて根拠なき楽観論にひたっているのは、あまりに皮肉だ。

こうした楽観こそが最大の危機といえよう。

はたして高市政権は、どこまで危機感をもっているのだろうか。

医療現場に身をおく者としての不安は、処方しようと思った抗菌薬が「欠品です」と薬局から言われる日が、あるとき突然おとずれることだ。

もちろんわが国の抗菌薬の濫用も由々しき問題だが、本当に必要な人にまで処方できない日が、それも「政治」が原因でおとずれることなど断じてあってはならない。

高市首相に伝えたいこと

この不透明な状況を突破できるのは、両国の事務方どうしの交渉ではもはや難しいのではなかろうか。現在のトップでは対話も無理なら、もうこれは政治的決断(リセット)しかない。