「AIに丁寧語を使う必要はない」――。そんな議論を耳にしたことはないだろうか。実はこれ、単なる時短テクニックの話ではない。OpenAIのCEOサム・アルトマンによれば、私たちがAIに「おねがい」や「ありがとう」と入力するだけで、膨大なコストが浪費されている可能性があるというのだ。

 いまや生活に欠かせないAIだが、その裏側で消費されている莫大な資源。私たちにいったいなにができるのだろうか。ここでは、南山大学国際教養学部教授の神崎宣次氏が寄稿した『AIの倫理』(栗原聡・編著/角川新書)の一部を抜粋。AIと持続可能性の関係についての諸問題の真相に迫る。

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日本の総電力消費を上回る? データセンターの“爆食”

 大規模なAIモデルの訓練や、AI利用の増大は大量の電力を消費するようになっています。たとえば、OpenAIのサム・アルトマンがX(旧Twitter)上で、「OpenAIは人びとが彼らのAIモデルに『おねがい』や『ありがとう』と言うせいで、電力コストとしてどれくらいのお金を失っているのだろう」という投稿に対して、数千万ドルかもと返答したことが話題になりました。これはAI利用の増大の一端を示すやりとりといえるでしょう。

©beauty_box/イメージマート

 国際エネルギー機関の報告書『エネルギーとAI』によると、2024年のデータセンターによる電力消費量は415テラワット時で、これは世界全体の消費量の1・5%程度とされています。比較のための数字を挙げると、地球の総人口を支える食料生産のための化学肥料の大量生産方法であるハーバー・ボッシュ法で使われているのが数%と言われています。また、2030年までにはデータセンターの電力消費は倍増し、945テラワット時になると予測されています。これは現在の日本の総電力消費を上回ります。

 もちろんAI業界も何も考えていないわけではありません。よりエネルギー効率的なAIの開発や再生可能エネルギーの利用といった取り組みがなされています。また前節でいくつか例を挙げましたが、AIによるエネルギー最適化への貢献には幅広い可能性があります。日本においても、電力インフラと情報通信インフラの効率化に向けたワット・ビット連携官民懇談会が設置されています。

 問題はこれらの差し引きがどうなるかでしょう。しかし将来的な電力需要の推計には不確実性があります。AIの今後の発展や普及がどのように進むかについても、さまざまな見解が公表されてきていますが、これまでの10年で生じた変化の大きさを考えれば予測は難しいと考えざるをえません。