人びとの生活水準や格差や雇用などに今後どのような影響を与えていくか

 資源採掘は環境だけでなく、人権の問題にも関連を持ちます。例として紛争鉱物について説明しましょう。紛争鉱物とは、コンゴ民主共和国とその隣接国で採掘され、武装集団による紛争や人権侵害の資金源となっている懸念のあるスズ、タンタル、タングステン、金の4種の鉱物を指します。アメリカでは2010年に制定されたドッド・フランク法に基づき、上場企業は紛争鉱物を使用しているかをサプライチェーン全体で調査し、報告することが義務付けられています。EUにおいても紛争鉱物資源に関する規則が採択され、2021年から適用されています。アマゾン、アップル、アルファベット(グーグル)、メタ、マイクロソフトなどのテック企業の紛争鉱物使用状況についてはFlorian Zandtが2024年にStatistaで発表した記事(Big Tech's Reliance on Conflict Minerals)が参考になるでしょう。

 紛争鉱物の例もそうですが、持続可能性は人びとの生活や社会にも関わります。このことは持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標を見れば明らかでしょう。人びとの生活が持続可能でなければなりません。この意味でAIの普及が人びとの生活水準や格差や雇用などに今後どのような影響を与えていくかは、持続可能性に関連する重要な社会問題といえます。

©mochimocchi_neko32/イメージマート

 たとえば、AIの普及により職を失う人が出るという技術的失業の可能性が論じられてきました。失業はしなくても、AI関連のスキルやタスクへの適応を迫られる職業は少なくないでしょう。たとえば教師などもそのように考えられています。またAIの学習が人手による作業に依存している場合があり、そうした作業が低賃金労働によって担われている問題も指摘されてきました。AIの研究・開発能力や、そこから得られる利益・恩恵が先進国(の更に一部の国)に偏っているという、国や地域間での格差の問題もあります。AIに関連する雇用格差の問題としてはジェンダーギャップの存在も指摘されてきました。2023年の世界経済フォーラムのジェンダーギャップ報告書によれば、AI関連で働いている女性の割合は約30%で、2016年との比較で約4%の増加に留まっています。

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 平和と持続可能性は表裏一体と考えられてきました。戦争は持続可能性のための長年の積み重ねを一瞬で破壊してしまいます。AI関連技術も軍事や安全保障と無関係ではありません。他方でAIは気候安全保障や食料安全保障に貢献することもできます。

 国家安全保障とは別に、人間の安全保障も重要な課題となっています。よく知られているように、緒方貞子とアマルティア・センを共同議長とした人間の安全保障委員会は、報告書[人間の安全保障委員会03]において人間の安全保障を「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること」と定義しています。AIがこの実現に貢献するように研究開発を導くことは、人工知能学会のような専門家集団に期待される社会的責任(ノブレス・オブリージュ)に含まれるかもしれません。