「タワマンの人間関係は希薄」――そんなイメージは誤っているかも知れない。タワマンが立ち並ぶ港区の湾岸エリアでは、区が主導する交流会や保育園のネットワークを通じて昭和の長屋のような濃密なコミュニティが存在しているというのだ。

 しかし、お互いの子を預かり合い、共有スペースで頻繁にパーティーを開く親子がいる一方で、マンション内で「孤立」していく家族も生まれているとか。いったいどういうことなのか。

 ここでは、中学受験塾の代表を務める矢野耕平氏による『ネオ・ネグレクト  外注される子どもたち』(祥伝社新書)の一部を抜粋。日本一の平均所得を記録する自治体で繰り広げられる子育ての実情に迫る。

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港区湾岸エリアに立ち並ぶタワマン群

 皆さんはタワマンの住環境についてどのようなイメージを抱くだろうか。

 株式会社東京カンテイ「カンテイアイ特集」(2025年1月30日配信)の情報によると、最高階数が20階以上の分譲マンション(これらを「タワーマンション」と定義している)は、2024年末時点で1561棟、41万102戸を数える。これらは都市部に数多く確認され、東京都には497棟(全体の31.8%)、16万780戸(全体の39.2%)がある。

 そして、いわゆる大規模なタワマンが東京湾岸部に集中しているのは先述の通りである。中央区では月島・勝どきエリア、江東区では有明・豊洲エリア、品川区では東品川エリア、港区では芝浦・台場・港南エリアがその代表例だ。総戸数で1000戸以上を有するスケールのタワマン群が立ち並んでいる。

写真はイメージ ©AFLO

 港区の湾岸エリアに焦点を当ててみたい。このエリアでタワマンが数多く竣工し、一気にその広がりを見せ始めたのは、いまから17~18年前くらいである。これらのタワマンはいわゆる運河に囲まれた「埋立地」であることが多く、もともとは工場や倉庫が立ち並んでいた。その土地を都市再生機構や大手デベロッパーなどが取得して、再開発する中で誕生したのである。

 いまから20年以上前、2003年に刊行された垣根涼介の小説『ワイルド・ソウル』(幻冬舎)にこんな記述がある。外務省を襲撃した男たちがマシンガンを運河に沈め、隠蔽を図るため、早朝に車でその場所へ向かうシーンである(同書の文庫版より引用)。

「速度を落としながら出口の下り坂へと侵入する。下りきった場所が芝浦埠頭の最も西側を走る一般道――海岸通りだ。海岸通りの脇には芝浦運河が平行して走っている。芝浦運河にかかる港栄橋を渡る。

 渡りきった最初の角を左折。運河沿いの堤防を走る。

 芝浦四丁目の界隈は工場群の密集した中州で、住居地域には指定されていない。工場が閉まった夕方から翌朝の工場が稼動する時間までは、まったくの無人地帯となる。朝早くジョギングや散歩をする人間も、この周辺には存在しない。」