なぜ福間は“異例の記者会見”に臨んだのか

 今回、女流のトップ棋士が乾坤一擲の会見に臨んだ経緯について整理しておきたい。

 福間は2024年に妊娠が判明。将棋連盟には5月の段階で妊娠していることを伝え、出産予定日が12月であることも報告した。もっとも、女流タイトル戦における妊娠・出産に関する規定は存在しなかったため、ここで「不戦敗による敗退」というリスクが表面化する。

 福間は日程変更などを要望し、いくつかの棋戦については変更・延期が認められた。しかし一部棋戦は調整が不可能となり、挑戦者として臨んでいた白玲戦、女流王将戦は、番勝負の途中で体調不良による不戦敗とされ、挑戦に失敗した。(いずれも西山朋佳女流三冠が防衛)

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第4期ヒューリック杯白玲戦の星取表。黒塗りの四角形が不戦敗を意味する(将棋連盟HPより)

 福間は12月、弁護士を通じ将棋連盟に「要望書」を提出した。そこには連盟サイドの「窓口の明確化」や、「対局環境や日程への配慮」などが盛り込まれていた。

 翌年(2025年)4月、将棋連盟から福間に一通のメールが送られる。

「唖然とした」(福間)というそのメールには「女流棋士が妊娠した場合、産前6週間、産後8週間、合計14週間の間はタイトル戦に出場させず、対局者を交代する措置をとる」という内容で、事前に提出していた要望書の内容は反映されていなかった。

 出産時に3カ月以上対局できないルールが確定すれば、日程変更が認められない限り対局者は変更となり、当然ながらタイトル保持者は失冠する。つまり戦わずしてタイトルを失い、翌年は予選から出直しということになる。

 福間は「14週」ルールの廃止や「産後8週間」の期間短縮、また産休したタイトル保持者の地位保全を申し入れたが、連盟との協議は平行線に終わった。絶望した福間は、水面下の交渉を断念し、世論に働きかけるべく昨年12月の会見に至った――これが大まかな経緯である。

中井に対しても事前の説明はなかった

「私が(14週の)規定を知ったのは福間さんと同じ、昨年4月のことでした」

 中井が今回、問題とされた規定について語る。

©︎細田忠/文藝春秋

「将棋連盟から事前の説明はありませんでした。会見の内容を聞く限り、今回の当事者である福間さんも、決定事項としてこの規定を知らされたようです」

 女流棋士に関する規定なのに、当事者たちは蚊帳の外——部外者には奇妙にも映る連盟の動きだが、そこには長年の「業界の慣習」があると中井が語る。