昨年12月、福間香奈女流五冠が妊娠・出産に関するタイトル戦出場規定の見直しを訴える記者会見を開いた。
将棋界の内外から注目を集め、賛否両論を産んだ今回の会見。女流棋士歴45年、タイトル19期の実績を持つ中井広恵女流六段は、あの会見をどう見たのか。(全3回の3回目/最初から読む)
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福間が今回、記者会見で訴えたポイントのひとつに「タイトル保持者の地位保全」がある。
「私にとって将棋は全てであり、何にも代えがたいことであります。不戦敗の裁定は、本来なら素直に喜ばしいはずの妊娠を素直に喜べず、当時はどうしようもなく苦しかった」
福間は会見でそう訴えた。2024年の女流タイトル戦において、進行中だった2つの棋戦は福間の不戦敗となり、シリーズは途中で打ち切られた。妊娠による体調不良がその原因である。
不戦敗を喫した「実質賞金5000万円」のタイトル戦
福間はなぜ「タイトル保持者の地位保全」を訴えたのか。もちろん、勝負の世界に生きる女流棋士にとって、盤上に臨むことなく敗北を喫する「不戦敗」が屈辱であることは言うまでもない。だが、無視できない要素は他にもある。その一つが、女流棋士をめぐる経済的な事情の変化だ。
福間が不戦敗となった棋戦のひとつは、2021年に創設された白玲戦だった。
白玲位は女流タイトル序列1位の高額賞金で知られ、創設時の優勝賞金は1500万円。2025年の第5期からは正賞金4000万円に加え、優勝特別賞の1000万円を合計した実質5000万円のビッグタイトルとなっている。
福間は2年前の妊娠中、白玲戦に挑戦者として出場。タイトル保持者の西山朋佳女流三冠に挑んだが、第4局まで2勝2敗と互角の戦いを繰り広げながら、その後の対局が不可能になり、結果的に不戦敗となった。つまり出産のために1500万円の獲得チャンスを断念しなければならなかったということになる。今後、もし同じことが起きれば5000万円を失う可能性もあり得る。
女流棋士の経済事情について、中井広恵女流六段(56歳)が語る。
「私が女流棋士となった時代と比べ、女流棋戦の数は増え、賞金は高額になりました。棋戦スポンサーの方々には感謝の思いしかありません。その一方で私たち女流棋士は、産休制度で一定の収入が保証される一般の会社員とは異なり、対局ができなくなれば、現状のルールではいきなり収入がゼロになります」




