「できれば、楽して稼ぎたい」――。そんな本音を抱く若者が増える中、漁業は“選ばれない仕事”になりつつある。Z世代の価値観は、なぜ海から遠ざかっているのか。鹿児島大学教授の佐野雅昭氏の新刊『日本漁業の不都合な真実』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む

写真はイメージ ©getty

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Z世代は「しんどい」漁業を選ばない

 私は今、いわゆる「Z世代」に水産学を教えています。「Z世代」は1990年代後半から2010年代前半に生まれた世代を指し、生まれた時からインターネットの利用が可能な初めての世代、「デジタル・ネイティブ世代」とも呼ばれます。パソコンよりもスマホを使いこなし、ソーシャルメディアもこの世代を中心に発展しています。

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 この世代は義務教育や中・高等教育の間にコロナ禍を経験し、思春期に長期間のリモート授業や部活動停止など、コミュニケーション機会の喪失を経験した世代です。そのためスマホへの依存度が高く、リアルな経験よりもバーチャルな情報を好み、自分のスマホ画面上の情報だけが世界のすべてだと偏った認識をする傾向が強いともいわれます。

 確かにコロナ禍以降、若者の行動様式や職業観が大きく変化したように筆者も感じています。私は食品ビジネスを研究対象にしており、日本中の水産企業や食品関連企業と日常的な交流があります。また、20年以上にわたり大学で就職支援を担当し、数百名を超える学生の就職活動に関わってきました。

 その中で感じるのは、近年、学生の職業観として、肉体的・精神的な痛みを伴う「しんどい」仕事からなるべく遠ざかる一方、投資などで不労所得を得たい、要するに「楽して儲けたい」という傾向が増していることです。

 動画サイトにあふれるそうした働き方が現実に可能で、賢い選択だと信じているのです。さらに言えば、「儲からなくてもいいので楽な方がよい」という傾向も強まっています。こうした世代で、漁業という見るからに楽ではない職業に就こうとする若者は多くはありません。これまでのやり方では漁業就業者は確保できないと思います。