「藤井さんは妥協しない」
大盤解説を担当する井田明宏五段と、藤井奈々女流初段が控室に。井田は京都市、藤井奈々は宇治市出身と、京都ゆかりの2人だ。
藤井奈々に天気のことを聞くと「京都はあまり雪が降らないんです。こんなに寒いのは珍しい」とのこと。
井田は、歩を玉で取った藤井の手順について「藤井さんは妥協しない手を選ぶ傾向が強いですよね」と言う。なるほど、やっぱり若手棋士もそういう印象を持つ組み立てなんだな。
再開の15分以上前には対局室に
永瀬は攻めの手を休めない。中央の歩も突き捨て、戦線を広げていく。藤井の手番で午後0時30分になり、1時間の昼食休憩に入った。だが、藤井はなかなか席を立たない。
ようやく腰を上げたのは35分。さらに午後、再開の15分以上前には、すでに対局室に戻っていた。
1分1秒を惜しんで考え込むその姿は、まるで未知なる盤上の深海に潜るダイバーのようだった。
藤井玉は依然として危険地帯のまま
再開後、藤井が歩の突き捨てで永瀬玉に襲いかかる。飛車切りを含みにした絶妙な組み立てで、検討陣から感嘆の声があがった。とはいえ、先手玉は依然として端の三段目で風にさらされている。飛車を切ると7八の金が浮き、さらに9九に飛車を打ち込まれると先手玉が危なくなる。「藤井さんの方が良さそうですが、難易度は藤井さんの方が高い」と井田。
2人は時折、残り時間を確認しては棋譜を読み返す。福崎九段が言う。
「あれはな、集中している証拠なんよ。読みに没頭しているとな、時間の感覚がわからなくなる。時間を聞いたときは、はっと我に返った瞬間なんよ」
なるほど、自分でも思い当たる節はあるけど、うまい説明だなあ。大盤解説会では「ここで永瀬さんにええ手があんねん。銀で歩を取りながら『と金』を打つ! これで優勢や」と、漫談みたいな解説をしていたのに。
「いったいった!」にわかに控室が活気づく
藤井が敵陣深くに馬を作って永瀬玉に切っ先を突きつけると、永瀬は泥臭く馬を引いて粘る。手番が藤井に回った。すぐ攻めるか、それとも一手ためてからか……などと井田と話していると、藤井が22分の考慮で3筋の歩を取り込み、飛車を走って王手を掛けた。
「いったいった!」と福崎が言い、さあ飛車を捨てての猛攻だと、控室が活気づく。





