永瀬が“最後のワナ”を仕掛ける
最終盤、永瀬は最後の罠を張った。
藤井が桂を取りつつ飛車を成って王手する。これで終わったか。これが投了図かなと思って見ていると、永瀬は角を打って合い駒した。なんだこれは? 角を手放しては形も作れないではないか、と見て、はっと気がついて寒気がした。角が遠く相手陣まで利いている。これは詰めろではないか! 最後まで逆転を狙っていたのか。
しかし、藤井は1ミリたりとも隙を見せなかった。金を投入して鉄壁の守りを築く。しっかりと自陣を埋め、永瀬の執念を封じ込めた。
ここで永瀬が投了。藤井の玉は、最後まで9七の地で、王者の如く仁王立ちしたままだった。
感想戦でもピリピリ…と思いきや?
終局時刻は午後6時43分。両対局者は大盤解説会場で挨拶し、午後7時過ぎから感想戦に入った。関係者は車の手配や打ち上げの時間を決めなければならない。私は福崎と連盟職員に「1局目の感想戦が割とあっさりでしたし、今回もそんなに長くならないと思います」と言った。しかし、これが大間違いだった。
互いの読みをぶつけ合う2人の顔は、真剣でありながら、どこか充足感に満ちている。第1局では藤井が顔面蒼白だと神谷広志八段が心配していたが、本局では顔色が良い。
永瀬が「詰むんじゃなかったんでしたっけ?」と言えば、藤井が「飛車合いで」「ああ……」。盤に並べる必要すらない。わずかな言葉と、マス目を指す指先だけで、互いの膨大な読みが同期していく。まさに阿吽の呼吸だ。
盤上では激戦を繰り広げながら、勝負が終われば、世界で2人しか共有できない景色の答え合わせを楽しむ。
内容が濃く、情報量が多すぎる。聞いているだけで頭が痛くなってきた。一通り終わったかと思えば、口頭だけの感想戦をしてから、また局面を戻して2周目、そして3周目。終わりの見えない2人の対話に、福崎九段が私に目配せをする。
午後7時58分、至高の時間は幕を閉じた。感想戦が終わると、福崎が私に「やっぱり仲いいじゃない!」。ええ、全然あっさりじゃなかったですね。ピリピリしていると思ったんだけどなぁ。
これで番勝負は1勝1敗のタイに戻った。次は東京・立川の地で、どのような「対話」を繰り広げるのか。爽やかな余韻とともに、冬の伏見を後にした。
写真=勝又清和
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