一方、妻エセルは裁判前の警察による聞き取りで「毎日、水を汲むために洗濯場を使っていましたが、異変、例えば腐った臭いがしたようなことはありませんでした」と供述。実際、彼女は捜索時に遺体が見つかった際、心から驚いたような態度を取っており、そこに嘘は感じられなかった。
また、事件後、アパートの建設作業員として働いていた2人の男性が警察を訪れ、重要な情報を提供したこともわかっている。彼らはエヴァンスが妻子を殺害しウェールズに戻っている間に洗濯場に入り仕事に使った道具を洗ったが、遺体はなかったと証言した。
これらを総合的に判断すれば、遺体は当初別の場所に置かれ、発見直前に何者が洗濯場に移動したことになる。しかし、裁判ではこうした証言が取り上げられることはなかった。
弁護側は「真犯人」を証明しようとしたが…
弁護側は、エヴァンスの主張するクリスティ犯人説に従い、彼の別の側面を見せようとした。クリスティが過去に数件の窃盗を働いたり、クリケットのバットで女性の頭を殴るなどの過去があり、暴力的な男性であると強調し、彼の証言が信用に足るものではないと熱弁をふるった。が、この指摘は結果的に逆効果となってしまう。
クリスティは過去に警察官を務め、社会に貢献してきた男。陪審員には悪に染まる可能性のあった人物が立派に更生を果たし、覚えのない殺人犯の汚名を着せられようとしているものと映ったのだ。
もはや、法廷にエヴァンス側の言葉を信じる者はおらず、検察側の「妻との折り合いが悪く、失業し鬱病になったエヴァンスが妻子を殺害した。彼の供述は幾度も変わっているが、最後の自供は信用に足り得る」との主張のみが説得力を帯びた。
裁判はわずか3日間で終わる。弁護側は最終弁論で、エヴァンスの犯行を裏づける物的証拠が一切ないことに加え、もし彼が犯人なら、娘ジェラルディンを心配し自宅アパートに戻ってくるわけがない、つまり、この時点で彼は娘がクリスティのもとで生きていると信じていたとしてエヴァンスの無罪を主張する。
