『おでん学!』(紀文食品おでん研究班 編)

 おでんに特化したこの本を手にして、一体誰がこれを買うのだろうかと首をひねった。おでん学とあるが、おでんを学ぶということであろうか? はたまたもっと突っ込んだ、おでんの学問ということであろうか?どちらにせよ、どのような人の食指を動かすのであろうか? そんなことを思いつつページをめくり始めた。

 田楽に始まったおでんはやがて煮込みおでんとなり、明治期に現在の形に落ち着いたとある。ということは他の和の食と比べると、その歴史はさほど古いものではない。

 明治期から昭和20年代後半までおでんは酒の肴、子供のおやつとして屋台等で親しまれたと書かれている。確かに子供の頃、おでんが家庭料理だった記憶はない。引き売りが来ると、鍋を持って買いに走った覚えがある。それが夕食のおかずだったのか、父親の酒のつまみだったのかは定かではないが、主菜ではなかったことは確かである。

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 小学校の低学年の頃だったか、「好きな食べ物は?」なる問いに、おでんと答えたのを覚えている。寿司でも、ステーキでもなく、おでんである。安上がりな子供であった。その答えから察すると、おでんは子供の口にはあまり入らなかったのではなかろうか?

 引き売りのおでん屋といえば、我が町内に現れるのは夕方であった。どこからやって来るのか、屋台を引いて定位置に落ち着く。その頃の私の小遣いは10円であった。夕方まで小遣いを使わずにいるということは至難のことであったが、稀に5円ほど残っていることがあった。

 おでん屋で5円で買える物はいくつぐらいあったかは覚えていないが、買う物は決まっていた。ちくわぶである。なぜかと問われれば、5円で買えるものの中で一番大きかったからである。それが理由とも思えないが、今でもちくわぶが好きである。そうした理由でおでんを飽くほど食べてみたかったのだろう。それが、好きな食べ物と言わしめたに違いない。

 しかしこの一冊を読んで分かったのは、おでんは日本各地に広がっていて、実に多種多様であるということである。出汁の取り方、味付け、具材の種類等の個性が地域ごとに際立っている。北海道から沖縄まで、様々なおでんの存在を調べ、その案内を細かに表しているおでん学。これはかなりタフな仕事であったに違いない。そこを流し読みしてしまってはいけない。

 現在、日本各地、その地域の個性がなくなりつつあり、平べったくなってしまっている。ここに紹介されているおでんは各地それぞれの個性がある。平べったくなっている日本、些細なことではあるが、こうした文化を守っていくのも一興であろう。

 俗っぽい言い方をすれば、たかがおでん、されどおでんである。おでんの歴史は浅い、しかしいろいろ知ると実に深い。

紀文食品おでん研究班/1938年創業の紀文食品広報室メンバーによる著書。94年、「鍋白書」の立ち上げ以来、30年にわたりおでん調査を重ね、おでん、練り物など日本の食文化の魅力を伝え続けている。おでん専門ウェブメディア「オデンガク」も公開中。

なぎらけんいち/1952年、東京の下町、旧木挽町生まれ。フォークシンガー・タレント。3月までのライブ情報は「ROOTS-REC」HPで。

おでん学! (祥伝社新書 724)

紀文食品おでん研究班/編

祥伝社

2025年12月1日 発売