『HELP/復讐島』
横柄な上司と、それに苦しめられる部下が、無人島に漂着して2人きりになり、その立場が入れ替わる──という映画だ。それ自体は決して真新しい題材ではない。しかも、この設定で112分の上映時間は長いのではないかという危惧もあった。が、そこはさすがサム・ライミ監督。さまざまな工夫を随所に凝らして、全く飽きの来ないスリリングな内容に仕上がっている。
まず目を瞠るのが、人物設定だ。主人公のリンダは仕事はできるものの、その功績は横取りされ続け、出世ができない。副社長に昇進させるという約束も履行されない。新社長となったブラッドリーに期待を寄せてアプローチをするも、彼は表向きでは調子のいいことを言いながら、リンダをまるで相手にせず邪険に扱う。
これだけならリンダは一方的な被害者ということになるのだが、実はそれだけではない。
他人の会話に割って入って自分だけの話をしたり、禁止されているオフィスでの食事をしている上に食べ残しのサンドウィッチを平気で机の中にしまい込んだり、食べカスを口元に付けたまま上司と会話したり──と、リンダはリンダでコミュニケーション能力にかなり問題があるのだ。そのため、これでは出世は難しいと思わせるものがあり、ただの「哀れな被害者」として描かれていない点が新鮮。加えて、彼女はアウトドアでの生活に長けているという設定も序盤でさりげなく明かされており、都会で生活している時よりも、無人島で暮らしている時の方が充実している様が楽しい。
また、小道具も効いている。特に、唯一の文明の利器といえるナイフ。リンダはこれを使って衣食住を形成しているのだが、ブラッドリーは絶えずナイフを奪取して立場を獲得する機会をうかがい続ける。そのため、ただの自然生活に見える描写にも緊張感が通底していた。
なぜリンダはブラッドリーの面倒を見続けているのか。なぜリンダは救助を求めたがらないのか。さまざまに張り巡らされた謎の数々も、物語への興味を引きつけ、これが二転三転する終盤の収束へと帰結する構成も見事。同監督の初期作品を思わせるような、パワフルなハッタリの利いた演出も随所に冴えており、気軽に楽しめるエンターテインメントになっている。
『HELP/復讐島』
監督・製作:サム・ライミ/出演:レイチェル・マクアダムス、ディラン・オブライエン/2026年/アメリカ/112分/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン/© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved./公開中
