2年前の2022年といえば、コロナの真っ只中だ。とりわけ中国では、上海の完全ロックダウンの影響で景気が減速しているという報道を我々はよく耳にした。

 その前の2021年には、従業員20万人を抱える不動産開発会社で、中国・深に本社を置く「恒大集団」の経営危機も頻繁に報じられた。経済の悪化だけではない。2019年6月9日には、香港で大規模なデモが起きた。中国が導入を決め、同地で施行された香港国家安全維持法が背景にあるとニュースは伝えた。中国本土の支配が日増しに色濃くなる中で、香港の富裕層たちが国外への脱出を決意するに十分な空気が醸成され始めていたのだ。

「逃資」目的の「東京買い」

 香港人の「東京買い」を初めて聞いたのは、5年前の2021年のことだった。銀座のスナックでナナミちゃんがカウンター越しにこう言った。

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「最近決まったのは、赤坂でぇ、ひと部屋10億円。坪で2000万だよぉ、意味わかんないよねぇ」

 ナナミちゃんの昼職は不動産会社だ。銀座には大学生の時から出ているが、卒業前に宅地建物取引士の資格を取り、東京・港区に本社がある大手不動産会社に就職した。新卒2年目の器用な子だ。

「買ったのはどういう人?」

「香港人。だいたいそういう10億円前後を買うのは、香港人か台湾人だから」

「坪2000万円って高すぎない?」

「うちらだって坪2000万円って誰が買うの? と言いながら毎日売ってる感じよ。だから今はもっと高くつけようって言ってるよ。チャレンジ価格、売れたらラッキーってやつね」

 坪2000万円というのは、ひと坪あたりの売買価格が2000万円という意味だ。一般的なファミリー層が購入する80平方メートル、24.2坪ほどの広さだと、2000万円掛ける24.2坪で約5億円ということになる。

 都内マンションの坪単価が、200万円から250万円が相場だった時代がある。1990年頃だ。 有明・豊洲・晴海など湾岸エリアの勃興が始まった初期の物件、2004年完成の東雲の「Wコンフォートタワーズ」の坪単価は100万円だった。その時20坪の部屋を2000万円で購入した知人によると、「当時はそれでも販売に苦戦しているようでした」という。ちなみにその彼は、2017年に4600万円で売却した。粗利で2600万円。サラリーマンの年収を軽く超える儲けを得たことになるが、もし今まで持ち続けていたら、購入額の3~4倍で売れただろう。

 話を香港人に戻そう。