「上海でマンションを買うお金と同じ金額で、東京なら2部屋、福岡なら3部屋買えます。アメリカも魅力的ですが、自分たちの親も歳をとってきてるから、いざという時にすぐ帰れる距離の日本の方がいいです。マンションを持っていれば、いちいちホテルを取らなくてもいつでも気軽に行けるから、マンションの所有権は日本に行く入場券のようなもの」

 ドン氏は、6年くらい前に中国で流行した「内巻」という言葉について話した。

 競争が激化する中で死ぬほど努力しているのに、誰も豊かさや成果を感じられない「消耗戦」の状態を意味する。就職氷河期世代の私は、自分もかつて経験した「ワーキング・プア」を思い出した。

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 14億人が住む中国では生まれた時から生存競争が始まる。朝10時から夜10時まで勉強していい大学を目指す。大学を出ても就職できるとは限らない。

 実際に上海では、コロナ禍の完全ロックダウン以降、勢いを無くした経済が元に戻れずにいるのを目の当たりにした。若者の失業率は表向き約20%と伝えられるが、実際には50%を超えていると聞いた。現地でその時流行っていた言葉は、「平替」。

上海・浦東の街並み ©rei125/イメージマート

「高いものは欲しくない。安くていいものを探す」という意味だ。12元(260~270円)も出せば美味しいものが食べられるサイゼリヤが大繁盛していた。宿泊したホテルはマリオット系列だったにも関わらず1泊1万円だった。観光客が戻ってこない、とタクシーの運転手が嘆いていた。上海では、家がなくタクシーに寝泊まりするホームレス運転手が増えたため、車内が臭いことが社会問題になっていた。

 ドン氏の話を聞き、たとえ「平和ボケ」と言われようが日本の暮らしは穏やかでいいなと思った。

 彼は日本に行くことを、「過酷な競争から子供を守るためでもあり、健康と心の充足を得るためです」と話した。

 私は、これまで会ってきた中国人を思い出していた。彼らは、日本人になりたがっていた。そして、日本社会にすんなり溶け込むことを重視していた。

「大阪はどうですか」と聞いてみた。

「街が元気であるためには3つ、必要な要素があります。それは、観光、風俗、ギャンブルです。大阪にはこれら3つが全て揃っています」

 風俗はナイトクラブが集まるミナミ一帯や飛田新地、ギャンブルは万博跡地にできるカジノを指しているようだった。

 そして、こう続けた。

「実際のところ、中国人で大阪のことを、『日本の中国』と言っている人はけっこういます。日本で2番目に大きな都市でありながら東京より圧倒的に不動産が安いです。伸び代もありますからね」