医学部が女子の入学に制限をかける背景とは
都内の公立病院で外科系診療科に勤務する女性医師Cさん(40代)も、自分が受験生だった時代は、国立も私立も当たり前のように“女子制限”があったと話す。
「女子に対する不当な配点を感じるだけでなく、面接では『親御さんが地方公務員で、医学部の授業料を払えますか?』と質問されたりしました。さすがに今ではありえないと思いますが……」
医学部が女子の入学に制限をかける背景には、外科系のハードな診療科に進みたがらない、結婚や出産などによる離職率の高さなどが理由に挙げられる。実際はどうなのか。
「その通りですよ」と答えるのは、関東地方の大学病院の外科系診療科に勤務する女性医師のDさん(30代)。
「妊娠出産で休職すれば、当然残った他の医師がカバーしなければならず、ただでさえ厳しい勤務状況はより苛酷になる。復職後も育児を理由に以前と同様の仕事ができなくなることが多いのは事実です」
上司から「ここにいる間だけは妊娠しないでくれ」
首都圏の公立病院で内科系診療科に勤務する女性医師のEさん(50代)も同様の意見だ。「3~4人の医師で成り立っている診療科で1人抜けたら、残された医師にとっては大変な負担増です。それまでできていた診療ができなくなることだって考えられる。以前、ある関連病院に出向した時には、そこの上司から『ここにいる間だけは妊娠しないでくれ』と頼まれたものです」
一般社会ならパワハラやセクハラとして糾弾されそうな話だが、Eさん自身も事情を理解しており、「はい、もちろんです」と答えたという。
「今回東京医大が『自分たちの関連病院に医師が足りなくなると困るから』という言い方をしたことでバッシングが強まったようですが、女性医師のウエートが高まり続ければ、社会全体で病院勤務医が足りなくなる危険性は十分考えられる。事実、私の医学部の同級生は60人中18人が女性医師ですが、病院勤務医として継続している女性医師は私の他に1人しかいません」
残る16人は、パート勤務や開業の道を選んだか、あるいは医師の資格を持ちながら専業主婦になったのか――。これが男性医師であれば、今も病院に勤務している可能性は大きい。膨大な教育費を投じて育てた医師が医療現場を離れていくということは、社会資源の損失でもある。
「感情論ではなく、社会全体の問題として議論すべき問題でしょう」と訴えるEさんの言葉は重い。
これまでの日本の医療界は、こうした問題を暗黙の了解とし、医師の努力に依存することで成り立ってきた産業なのだ。取材で病院勤務医と話をしていると、よくこれだけの激務の中で、体を壊したりメンタルダウンしたりしないものだ、と感心することが少なくない。男性でさえ厳しい世界で、女性が生き残り、活躍し続けることの苦労は並大抵のものではない。