自分の生活を犠牲にして働くことを前提にして考えることが正しいと言うつもりはない。
ただ、これまでの日本の医療が、多くの医師の滅私の精神の上に成り立ってきたことは事実であり、その恩恵を受けているのは私たち国民である――ということも忘れてはならない。
「“医師も人間である”という意識を持ってもらいたい」
今回の問題で東京医大が考えを改め、入試改革に取り組むべきであることは確かだ。
自分が不利な立場であることを知らされることなく、男子と同額の受験料を支払って試験に臨んでいた女子受験生たちは、言ってみれば詐欺に遭ったようなものだ。
そんな不当な差別を受けることのないよう、公正な判定が行われる仕組みづくりを構築してほしい。
一方で私たちも、単に大学を責めるだけでなく、疲弊しきっている病院勤務医、崩壊寸前の医療提供体制の現状を「自分のこと」として理解する必要があるだろう。
「女性医師が妊娠出産で離職した場合でも他の医師に過剰な負担が生じないような、余裕のある労働環境を整えることが急務。そのためには患者の側にも、コンビニ受診を控える、時間外に軽症で受診するなら相応の対価を支払うなど、“医師も人間である”という意識を持ってもらいたい」(前出の女性医師Dさん)
病院勤務医の労働環境を改善する必要があるが……
話がとっ散らかってしまったので整理する。
東京医大の「女子制限」の思想の背景には、医師になった後の女性の離職率の高さがある。
女性医師の離職率が高いのは、病院勤務医の激務が、女性ならではのライフイベントに対応できないという事情がある。
その問題を解消するには、病院勤務医の労働環境を改善する必要がある(これまではこの部分を「医師の努力」に依存してきた)。
そのためには、日本の手厚い社会保障制度に甘えてきた医療消費者の側にも意識改革が必要――ということだ。
それをせずに、医師の努力を求めるだけでは、大学とて女子受験生の受け入れを制限せざるを得なくなり、そこだけを「許さない」と声高に叫んでいたのでは、日本の医療は遠くない将来確実に崩壊する。そもそも医師になろうとする者もいなくなる。
刻苦勉励の末にようやく医学部に入っても、あるいは国家資格を得て医師になっても、医療現場の疲弊ぶりを見ればやる気をなくすのも無理はない。その結果、目先の利く者、優秀な者ほど手にした資格を生かして美容外科など自由診療の道に走るだろう。結果として日本の医療水準は低下していく――。
極論と言われるかもしれないが、筆者は意外に真剣に、そんな不安を持っている。