ウクライナ・ラーメンの面白い特徴とは…

 ただし、そこには落とし穴もある。ウクライナでは、ウクライナ料理の感覚から、ラーメンをスープ料理と受け止め、「スープが主、麺が従」だと認識している人が多く、結果、麺の具合に対する注意が不十分な店が少なくない。茹で過ぎでコシがすっかり失われた、ずんでれ状態の麺が供されることが多いのだ。言い換えれば、そのような麺認識が一般的な中で、それでもラーメンにおける麺の死活的重要性を深く理解している数少ないキーウのラーメン屋は、讃えるべき貴重な存在である。

キーウの人気店「ラーメンVSマーケティング」のラーメン ©平野高志

 また、ウクライナ・ラーメンのさらに面白い特徴は、ピンク卵である。キーウには、ラーメンを流行させた人気店「ラーメンVSマーケティング」という店があるのだが、そこが開業当初から、ラーメンにこのピンクの卵を入れていたことで、現在ウクライナ全土のラーメン屋の約半数では乗せられる卵はピンク色をしている。

 日本のラーメンしか食べたことのない人なら、初見ではその鮮烈な色味にギョッとするかもしれない。しかし、恐るるなかれ、これはボルシチに入れられる、ウクライナで一般的な野菜「ビーツ」で作った酢により酢漬けにした味玉なのだ。

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 この酸っぱいピンク卵は、言うなれば、カレーのらっきょう、豚骨の紅生姜、唐揚げのレモンのような位置付けで、ラーメンの塩味に酸味を絡ませることで、料理に巧妙なひねりを加えるものであり、味の構成としては十分合理的だと私はみなしている。むしろこの酸味と塩味の組み合わせに慣れると、醤油ラーメンに醤油味の味玉が乗っている状況にこそ若干の疑問を抱き始めるようにすらなる。

この街の強靭さを感じる瞬間

 この冬、この伝説のラーメン屋「ラーメンVSマーケティング」も、大型発電機に頼って営業を続けている。停電時には、店の外に置かれた発電機がぐわんぐわん鳴り響いている。また、発電機も常に安定して稼働するわけではなく、しばしば再起動が必要のようで、店内でラーメンを食べている最中に、電気が落ちて、店内が急に真っ暗になることが多々ある。しかし、お客さんはその暗闇の中でも黙々とラーメンを食べ続けるのだ。

 私は、その瞬間に、この街の強靭さの片鱗を見る思いがする。寒さと暗闇を強制される侵略戦争の只中で、キーウっ子達は一杯のラーメンで胃を満たし、心を温めながら、日常を続けているのだ。

 ところで、4年前の2月にロシアの全面侵攻が始まった時、「ラーメンVSマーケティング」も一時休業していた。だが、3月31日、ロシア軍がキーウ周辺から撤退し始めた時には、すぐさま営業を再開した。