「あなたにとってラーメンとは何か」

 私は、同年4月に、ツイッター(当時)にてウクライナ語で「全面侵攻以降で、あなたの日常習慣に変化は生じた?」と質問したことがあるのだが、その時あるフォロワーが「それまではルーティンだったことが、今では運命の贈り物のように思うようになったことがある。例えば1杯のラーメンだ」とリプライしてくれた。彼は、再開直後の「ラーメンVSマーケティング」を訪れ、「忘れていたラーメンの香りと味が、とても嬉しかった」と書いていた。

 今回、この記事の執筆に際して、その話をもう一度聞いて見たくなり、その方にメッセージを送ってみた。

 彼の名は、オレクサンドル・コステンコ。かつて数か月間「ラーメンVSマーケティング」で働いていたことがあり、そこでラーメンの奥深さと、ラーメンを介した料理の哲学を学び、だからこそ全面戦争開始後にお店が営業を再開させた時には、特別な感慨を覚えたのだという。

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 コステンコさんは、今はウクライナ陸軍に入隊し、第100独立機械化旅団で小隊の隊長をしている。彼に「あなたにとってラーメンとは何か」と訊ねると、「現在凍てつき、残酷な攻撃で崩れている私の故郷キーウを象徴するもの」であり、「複雑でありながらシンプルな、日本の素晴らしい文化の一要素」であり、「平和だったキーウ、全面戦争前の生活の感覚を自分に取り戻してくれるもの」との答えをもらった。

ウクライナの人々が必死で自らの日常を維持している

 彼は今でも、キーウを訪れる時はいつもラーメンを食べに行くという。最後にラーメンを食べたのは、「ラーメンVSマーケティング」の店長が、約3か月前に戦闘地帯でも食べられるようにと数十人分の簡易ラーメンセットを届けてくれた時で、受け取った時は「とても嬉しかったし、陣地から戻ってきた兵士たちにラーメンを作ってあげた」という。

コステンコさんがドネツィク州ドルジュキウカで作ったラーメン。卵はピンク!(提供写真)

 この戦争には、日常がある。ロシアは、ウクライナの人々の日常を奪い、破壊したがっているが、ロシアがそれを実現できたのは、ウクライナの一部においてのみである。他の場所では、ウクライナの人々が必死で自らの日常を維持している。多大な犠牲と甚大な努力で私たちが守っているのが、この日常である。侵略の目的が日常の破壊なら、自衛の目的は当然それを守ることであり、キーウで見られるこの景色は、その自衛戦争の肯定的な結果なのだ。

 氷点下20度のキーウで食べる、ピンクの卵の乗った一杯のラーメンは、ウクライナの人々が命を賭けて守っている、愛しき日常の象徴なのだと思う。

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