「お客さんのニーズが掴めない」「チームメンバーとの1on1が形骸化している」……そんな悩みの正体は、相手の言葉をそのまま受け取ってしまう「ヒアリングの罠」にあるのかも知れない。『The Giver 人を動かす方程式』が話題の元マイクロソフトの澤円氏が、“本人もまだ気づいていない”才能を言語化して「推す」大切さを説く。

(本稿は、前掲書から一部抜粋したものです)

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澤円氏 撮影・杉山拓也(文藝春秋)

顧客の隠れた願望に気づく

 ここでちょっと考えてみてほしいのですが、人は誰かからなにかしてもらう際、どんなことが一番嬉しいでしょうか。

 前から欲しかったものをもらうとか、手が足りなかったところを助けてもらうとか様々だと思いますが、「自分でも気づいていなかった」願望やニーズをぴたりと満たしてくれるサプライズこそが最高のギフトだと僕は思っています。

「そうそう、こういうのが欲しかったんだよ!」と自分の無意識の願望(インサイト)に気づかされ、応えてもらえると、とてもハッピーな気持ちになりますよね。

 これは、チームメンバーと関係性を築いていくうえでも、顧客に対してなにかを提案するうえでも、深く通底する真理だと思います。

 なぜなら、「どんなものが欲しいですか」「職場でなにを解決してもらいたいですか」と相手に尋ねたり、1on1ミーティングでヒアリングしても、人は必ずしも自分のニーズを明確に言語化できないからです。相手に聞くことはとても大事ですが、話すことをそのまま受け止めるだけでは、その人に対する理解が浅くなりがちです。

「もっと速い馬が欲しい」わけじゃない

 このことを端的に示す例が、馬車から自動車へと、人の移動手段を大きく変化させたフォード・モーターのイノベーションです。

 1900年代の自動車の黎明期、もしも当時の顧客にヒアリングしたら「もっと速い馬が欲しい」と答えていたでしょう―—。そう指摘したのは、アメリカの自動車王ヘンリー・フォードです。

 彼はそこに対するアンサーとして馬車の性能を上げることではなく、顧客のインサイトを深く観察し、「もっと楽に速く移動したい」という真のニーズを見抜いたのです。そうして開発されたT型フォードは、全世界で1500万台以上の大ヒットとなりました。

 

 顧客の問題を「抽象化」してその本質を取り出すことで、「まさにこんなものが欲しかった」という、画期的で便利な移動手段を提供したのです。ものごとを抽象化して本質を掴む方法については改めて詳述しますが、人がまだ気づいていない隠れたニーズを掘り起こす思考のフレームワークは、Giveの質を飛躍的に高めます。