背景から説明しよう。郵政民営化を経たかんぽ生命は、2010年代後半に「新契約の拡大」を主要な経営指標のひとつに掲げ、日本郵政グループ全体の中期経営計画でも「保障重視の販売」や「保有契約の純増」を明確に打ち出していた。

こうした方針のもと、実際の営業活動を担う日本郵便の渉外社員には、販売件数や保険料額に関して高い目標が課され、その達成状況は社内ネットワークを通じて可視化・共有された。営業成績の優秀者は社内ランキングで公表・表彰され、海外研修旅行といったインセンティブを得る仕組みも設けられていた。

さらに2015年には、日本郵便およびかんぽ生命の渉外社員を対象とした人事制度の改定が行われ、報道によれば、基本給のおよそ1割強を削減し、その分を営業実績に応じて支給される「営業手当」に振り替える仕組みが導入された。この制度改定によって、社員の生活が販売成果に強く依存する構造がつくり出され、結果として「目標を達成しなければ生活が成り立たない」という圧力が現場に浸透することになった。

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「真の新規顧客」を獲得するのは難しい市場環境

そのような追い詰められた状況下にあって、本件は発生した。

新しい保険商品の販売にあたり、販売現場を統括する日本郵便(郵便局)は、営業成績のカウント方法として次のようなルールを運用していた。

・既存のかんぽ生命の契約者に新しい保険を追加契約してもらった場合、新契約から6カ月以内に旧契約を解約すると、新規顧客とはみなされず、営業成績は半分しかカウントされない
・既存契約を解約して新しい保険に乗り換えた場合も、解約から3カ月以上の期間を空けなければ、新規顧客とみなされず、営業成績は半分しかカウントされない

この制度は、既存契約の単なる乗り換えではなく、本当の意味での新規顧客獲得を促すことを狙ったものである。それ自体は営業方針として理解できるが、生命保険文化センターの2019年調査によれば、18〜69歳の生命保険加入率は82.1%と、すでに8割超が加入済みであった。こうした市場環境において真の新規顧客を獲得することは極めて難しく、現場の販売圧力を一層高める結果となった。