無戸籍児、誘拐、強制中絶が横行

私の知人の別の中国人女性も、農村出身で2番目の子として生まれ、両親は罰金を支払うことができなかったため、戸籍がないまま育てられた。中国でかつて大きな社会問題となった、いわゆる「黒孩子」(ヘイハイズ=無戸籍児)だ。黒孩子は「いないもの」として扱われるため、医療や教育を受けられないが、その女性の場合、地元の中学までは進学できた。しかし、戸籍がなかったので高校には進学できなかった。

また、不妊で子どもが生まれなかった夫婦や金目当ての人など、子どもを欲しがる人が多いため、誘拐ビジネスも横行した。現在も誘拐はなくなっておらず、中国では子どもを連れ去られた経験のある人が大勢いる。たった1人のわが子が事故や事件に巻き込まれて亡くなった「失独家庭」も多い。子どもを望んでも産めないばかりか、2人目を妊娠させないように、地方政府の役人により、口に猿ぐつわをされ、身動きできないように手足を縛られて、中絶手術をさせられた女性も多かった。生まれた子が女児だった場合、その子を山奥に捨てに行ったという話も、農村では枚挙にいとまがない。

ちょうど中国の出生数減少の報道があったばかりだったので、周さんに、周さんのお母さんは現状(少子化問題)をどう見ているのか、と聞いてみると、「ざまあみろ、と言っています」とのこと。政府の方針により、二度とない人生を狂わされ、悲しい目に遭った人々が中国にはごまんといる。現在のとどまるところを知らない人口減少は国民による政府への仕返しなのか。「一人っ子政策」が開始された1979年からまもなく半世紀になる。中国社会はあまりにも大きく変貌し、人々の意識は変わった。だが、政府への不信感がぬぐえないという点は変わっていない。

中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』『中国人が日本を買う理由』『日本のなかの中国』(日経プレミアシリーズ)などがある。
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