高市早苗氏の首相就任を受けて、警察官僚の出世レースに異変が起きている——。月刊文藝春秋の名物連載「霞が関コンフィデンシャル」の特別版である「本命と対抗」から、一部を抜粋して紹介します。

「首相秘書官にはそれぞれのエースを出して」

 警察庁の次代を担う長官候補の「本命」と「対抗」の人事に、高市内閣の発足で思わぬ歯車の狂いが生じている。2025年10月に高市内閣が発足する前までは、すでに退官が規定路線だった迫田裕治警視総監(平成3年)が2026年1月の通常国会開会前に勇退し、後任の警視総監には警察庁ナンバー3の森元良幸官房長(同)が就任する人事構想が警察庁内では描かれていた。

 警視総監の交代に伴う人事として、森元氏の後任の官房長には警察庁刑事局長だった谷滋行氏(平成5年)の就任が予定されていた。官房長に就任すれば、時期が来ればそのまま次長、長官へと進むことが衆目の一致するところで、かねてから本命だった。

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首相秘書官に抜擢された前警察庁刑事局長の谷滋行氏 ©時事通信社

 この人事構想に基づけば、2026年1月からの警察庁のスリートップは、楠芳伸長官(平成元年)、太刀川浩一次長(平成3年)に続き、平成5年入庁の谷氏が官房長となり、新体制がスタートしていたはずだ。実現となれば入庁年次がトップから2年ずつ下がる形になる。入庁年次が重視される「霞が関の掟」に従い、上下関係が収まりのよい布陣となるところだった。

高市早苗首相 ©JMPA

 ところが、新内閣がスタートすると、高市早苗首相は各中央官庁に対して、「首相秘書官にはそれぞれのエースを出して」と強く要請。高市首相と面識があったこともあり、長官候補本命の谷氏が首相秘書官に一本釣りされる形で抜擢された。同時に森元氏は官房長に残留が決定、予定されていた警察庁と警視庁の最高幹部人事の一部が頓挫、想定外の形で決着した格好となった。