取材に応じた元幹部や捜査員たちは、口々に、火災捜査の難しさについて語り出した。
火災直後、出火元や原因の究明を専門とする捜査一課・火災班の捜査員たちや科学捜査研究所の研究員、鑑識、消防や火災学者などが現場に入り、出火原因の究明に当たった。膨大な燃え殻と灰の山の中から、わずかな手がかりを見つけ出そうと、全身を灰まみれにしながら手箒で一つ一つ丁寧に選別する過酷な作業。漏電の痕跡を示すショート痕は、直径わずか数ミリと極めて小さい。見落とせば、その後の捜査を左右する。絶対に手がかりを見落とさないという気概を持って多くの捜査員が出火原因の特定に挑むという。
しかし、そんな彼らでさえ、歌舞伎町ビル火災の出火原因の究明は困難を極めた。見えてきたのは、可能性を一つ一つ潰していく捜査の難しさと、それを最後まで潰しきれない限界だった。
最も激しく燃えていたのは、3階の階段周辺。ビルの各店舗がゴミや備品を階段に置くことが常態化しており、そこが燃え広がったことが被害を拡大させた。しかし、この階段にはふだん火元となるものはなかった。ガソリンや灯油を撒いた痕跡である油性反応も検出されなかった。
一方で、出火原因となりうる可能性はいくつか残されていた。まず、4階飲食店から、1階入り口の電気看板まで延長ケーブルが階段を這うようにして引かれており、その周辺で漏電の痕跡を示すショート痕がいくつか見つかった。さらに、3階エレベーターホールに設置されていたガスメーターは、ガス管から外れて地面に落ちた状態で発見された。漏電やガス漏れによる出火の可能性がまず疑われた。
しかし、ショート痕の多くは火災の熱によって引き起こされる二次的なものとみられ、現場の焼け具合から否定された。さらに、階段室に爆発の痕跡はなく、ガス漏れの可能性も否定。燃焼実験の結果、ガスメーターは火災の熱によって、配管が溶けて脱落した可能性が濃厚とされた。
捜査を惑わせた1本のタバコ
残された可能性は、何者かによる放火か、過失による失火だった。3階の階段には1本のタバコの吸い殻が残されており、これが捜査を難しくしたと、当時の捜査幹部は語った。




