捜査員の間では、「殺し3年、アカ8年」という言葉があるという。殺し=殺人事件の捜査は、3年ほどで基本が身につくが、アカ=火災捜査はきちんと見立てを立てられるようになるまで8年は経験と鍛錬が必要という意味らしい。ある捜査幹部は、悔しそうにこう語った。

「火災捜査は、証拠を積み上げて通常逮捕するのが難しいという意識が捜査員たちの間にある。現行犯逮捕するしかないと。しかし、それでは愉快犯による連続放火は捕まっても、それ以外は捕まらないということになる。それでいいのか、という思いがある」

「犯人が見つかったら『どういう気持ちで生きてたの?』って聞けたら…」

 その後、捜査線上には、現場からやけどを負いながら立ち去った人物や、現場ビル関係者や周辺の店舗経営者など、複数の人物が浮上したものの、いずれも有力な手がかりはなく、捜査は行き詰まっていった。ある捜査員は、「われわれにも責任がある。遺族の方や亡くなった被害者に報告ができなかった。真実がどこにあるのか、その真実を明らかにできなかったというつらさがある」と語った。

ADVERTISEMENT

 なぜ家族を失わなければならなかったのか。今回、取材で話を聞くことができた遺族の方々からは、誰が火をつけたのか、動機は何だったのか、今でも知りたいという声が多く聞かれた。

「犯人が見つかったら、ひと言、『どういう気持ちで生きてたの?』って聞けたらいいなって思っている。それがなかったらね、何のために私、生きてるんだろうと思う」(2人の娘を火災で亡くした植田安子さん)

植田安子さんは2人の娘を火災で亡くした ©NHK

 歌舞伎町ビル火災は、現住建造物等放火罪はすでに時効となったものの、2010年に重大犯罪の時効が撤廃されたことによって、殺人事件としての捜査は今も続けられている。

NHK未解決事件「新宿歌舞伎町ビル火災」

NHK ONEで、3月7日(土)まで見逃し配信予定

最初から記事を読む 「お母さんは火事で…」44人が死亡「歌舞伎町ビル火災」後の“壮絶な25年”「あんな場所にいたほうが悪い」と誹謗中傷も…

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。