「みんな、いろんな野球の話をきちんと言葉で説明できることに驚きました。まだ空回りしているヤツもいましたけど(笑)、それでも何とか言葉にしようとしていましたからね。頭を使って、野球を考えようとしているということだと思います」

紙一重の結果を常に手繰り寄せてきた「イチローの武器」

 しかし、日本の緻密な野球が世界を制したという安直な図式に、イチローは与しない。彼は、勝ったから“日本の野球”が世界一なのだ、と言った。アメリカ、ドミニカ、キューバ、日本……世界のトップクラスに居並ぶ国々の中で、日本がWBCに勝てたという結果は紙一重であって、何をもって日本が勝てたのかと問われれば「運があったから」としか言えないのだという。

「目に見えない何かがあったのだと思いますが、でも、それが何なのかなんてことはわからない。だいたい、野球なんてわからないことだらけですから。みんな答えを探そうとするけど、野球に明らかなことなんてほとんどないのかなと思います」

ADVERTISEMENT

 緻密さを基盤にした日本の野球は、確かに世界のトップクラスに並び立っている。そして日本のプレイヤーは、世界のトップに立てることを、イチローが示した。しかし、それが紙一重の連続だということは、誰よりもイチロー自身が痛感している。

©文藝春秋

「今シーズン、3試合で11本もヒットが出たかと思えば、6試合で2本しか打てないこともあった。それでも僕の感覚の中では、どちらの結果に対してもまったく違わない自分が存在する。それは心強いことではあるけど、同時に怖いことでもあります。どちらに転ぶ可能性もありますから」

 ならば、その紙一重のはずの結果を、イチローが常にいいほうへ手繰り寄せてこられたのはなぜだったのか。

「それは、本能以外の部分があったからでしょうね。メジャーのトップの選手には本能ではとても敵わなくても、先を読むこととか、匂いを感じ取ることとか……」

 イチローというプレイヤーがメジャーで勝負している武器はそれなのか、と問うと、イチローは即座に、「うん」と頷いた。

最初から記事を読む 《第1回WBC》「これはまずいなと思いました」アメリカ戦前に自信を失いかける日本の選手たち→“孤高のリーダー”イチローの第1打席で一変した“チームの空気”

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。