5年で日本球界の頂点へ

 学生野球憲章の規定により直接の対話を認められていない高校生とプロのスカウトだが、“例外”が存在する。夏の甲子園終了後にプロ野球志望届を提出した選手は、翌日から各球団と事前面談をすることができるようになるのだ。

 山口が山本と初めて話したのは、ドラフト前のこの機会だった。

「由伸はめちゃくちゃ緊張していて、本当に田舎の高校生だなというイメージでしたね。でも話をしていく中で、野球に対する取り組み方や考え方は素晴らしいものがありました。『いついつの試合はどうだった?』と過去の話を聞いても、しっかり自己分析もできていましたし、きちんとした答えが返ってきました。だからプロ入りしてからも問題なく対応できるだろうなと思いました」

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 初めて山本のブルペンを見て強い印象を受けて以降、山口はつぶさに観察してきた。

 試合前のウォーミングアップはどのような姿勢で取り組み、投手にとって難しい立ち上がりではどんな投球を見せて、3アウトをとってベンチに帰った後はどのような振る舞いをし、チームメイトとどうやってコミュニケーションをとっているのか。

 スタンドから感じ取ってきた山本の人間性は、膝を突き合わせて話すとより浮き彫りになった。選手、そして人としても誠実な姿勢や思考能力を持っていると伝わってきたから、自信を持って球団に推薦することができた。

©文藝春秋

 2016年10月20日、迎えた「運命の日」。

 オリックスは上位2巡で社会人と大学生の即戦力投手を入札し、3位で高校生内野手の岡﨑大輔(花咲徳栄高校、現オリックススカウト)を指名した。

 他球団は3巡目までに山本の獲得に動くことはなかった。

 結果、山口が惚れ込んだ高校生右腕との交渉権はオリックスのものになった。

 運命の赤い糸を手繰り寄せてから15日後の11月4日。都城高校に指名挨拶に足を運んだ山口は、山本に最大の表現で期待を伝えている。

「最終的には球団の看板を背負える選手になるのはもちろん、日の丸を背負って日本を代表するピッチャーになってもらいたい」

 それから5年後の2021年、山本は名実ともに日本を代表する投手になった。

次の記事に続く 【WBC出場】山本由伸(27)の「柔らかすぎる」と話題のフォームを「野球少年が安易にマネするべきでない」理由とは…