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裁判は罪を裁く場であり、真実を究明する場ではない

 地下鉄サリン事件で使われたサリンは、教団内に残っていたサリンの中間物質であるメチルホスホン酸ジフロライド(裁判内での通称は「ジフロ」)を使って作られたことはすでに知られています。しかし、読売新聞が1995年の元旦に報じたスクープ(「サリン残留物を検出 山梨の山ろく『松本事件』直後 関連解明急ぐ 長野・山梨県警合同で」)をきっかけに化学兵器開発の発覚を恐れ、サリンをはじめとする化学兵器を一旦すべて廃棄していた教団が、なぜ大量の「ジフロ」を隠し持っていたのかは中川さんを通して初めて知ることができました。中川さんが語ったその詳しい事情は本に書いています。

 廃棄されなかったジフロを管理していたのは誰か、サリンは本当に第7サティアンで作られていたのか。裁判を経ても曖昧なことは多々あります。

アンソニー・トゥー教授

 本にも書きましたが、裁判は罪を裁く場であり、すべての真実を究明する場ではありません。警察にしたって、彼らの役目は犯罪を調べることですから、結局犯罪に使われなかった生物兵器については調べようがありません。ですから、研究者として真相解明に少しでも役立ててよかったと考えています。

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 中川さんは、「日本ではもうサリン事件は起こらないだろう」という見方をしていましたが、私も同感です。というのも、教団内でサリンを製造した際も、100人ほどの人手が必要なくらい、大がかりなプロジェクトだったそうです。今後国家が主導する開発はありえても、民間人が開発する可能性は低いのではないかと思うのです。

 今のテロは、過激な主張に共感した個人が世界各地でバラバラにテロを起こす「ローンウルフ型」が主流で、これまで以上に誰がどこでなにをするか、予想がつきません。

 ですので、いざテロが起きてしまったときのための準備を進めることが大事だと考えています。米国では、病院や大学の理科系棟では各階に除染シャワーがあります。警察に知らせれば、途端に全員退去がおこなわれる、その町の消防車が短時間で何台も来る体制をつくる、そういったインフラを整えるのが大事ではないかと思います。