決め手は“お母さんとの会話”

――佑役はオーディションで選ばれました。

中川 いまお話しした経緯から、自分が出来なかったことを、佑に成し遂げてほしい、お母さんと向き合って気持ちを伝えることを、僕の代わりにやってもらいたい、そういう思いでした。

 佑役のオーディションのとき、実際に「母親に電話する」という課題を出しました。そのとき、山ちゃんはお母さんにちゃんとリスペクトをもっているし、その気持ちが伝わるようなコミュニケーションをとっている。それが分かったので、今回、佑役を託しました。

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――山時さんは電話でお母さんと、どんなことを話されたのですか。

山時 これは事前に監督と考えた質問なのですが、「仕事が前よりも順調になってきているけれど、それについてどう思う?」と聞きました。それに対して母は、「嬉しいし、謙虚に頑張ってほしい。でも離れていくのはちょっと寂しい」と言っていたのを、覚えています。

 普段から母とは、よく話をします。今日あったことや、明日何するの、とか。次にやる仕事のことも、何でも知っている(笑)。でも真面目な話をするのはちょっと恥ずかしくもあって、普段は聞かないことだったので、母の気持ちを知ることができたのは、よかったです。

撮影・文藝春秋写真部
スタイリスト:西村咲喜
ヘアメイク:髙橋幸一(Nestation)

さんときそうま〇2005年生まれ、東京都出身。5歳から芸能活動をスタート。2016年に映画『ゆずの葉ゆれて』で俳優デビュー。2023年、宮崎駿監督のアニメ映画『君たちはどう生きるか』で主人公・眞人の声を担当。他の出演作にテレビドラマ『ちはやふる―めぐり―』(25)、映画『ラーゲリより愛を込めて』(22)、主演を務めた『蔵のある街』(25)などがある。TBS火曜ドラマ『時すでにおスシ!?』が4月より放送開始。

――母親の美咲役を、菅野美穂さんが演じられました。難病を患うなかで、息子の未来を願うという、これもまた大変難しい役ですね。

中川 菅野さんは、ご自身で実際に子育てをしていて、思春期の子供と向き合っていらっしゃるので、母としてのリアリティはもちろんお持ちでした。さらに、病気が進行していくなかで、特殊な所作が求められる役でしたが、病気のこともご自身で深く研究されていて、医療監修者が改めて何か言う必要がないくらいの、素晴らしい完成度でした。

――菅野さんと共演されるなかで、特に印象に残っていることはありますか。

山時 撮影中は、あまり距離が近くなりすぎないように意識していました。でもある時、「介護をする人の気持ちになって、私の爪を切ってみてくれない?」と言われて、切らせていただいたんです。初めてのことだったので驚きましたが、菅野さんの優しさを感じました。

 このとき、佑が普段お母さんとどういう関わり方をしているか、実感がわきました。脚本には書かれてないことですが、その後演じていくうえでも、とても貴重な体験でした。

©2026映画『90メートル』製作委員会

――介護をするシーンについては、どのように準備をされましたか。

山時 撮影前に介護練習の時間を設けていただいたのですが、プロとは違う手つき、息子ならではの介護がどういうものか、深めていきました。あと監督から、介護を扱った漫画本を薦めていただいて、それを読んだりしました。

 僕はいま、仕事をしていないときは自分の時間を自由に使うことができます。佑として、“お母さんのために使う時間”を過ごすという体験をして、普段の自分とは違う部分を感じました。

 それから僕も中高でバスケ部に入っていたときは、試合に出ていたんです。でも長時間の仕事が入ったりすると、出たくても出られないことがあった。やりたいのにやれない、という佑の辛さには、共感しやすかったです。