描かれているのは、普遍的な世界

――佑が「家庭の事情」とだけ告げてバスケ部を辞めたことで、学校の友人たちと溝が出来てしまいましたが、あることをきっかけに徐々に関係が変化していきます。

山時 人との距離感によって、見せる自分が違う、という表現は難しかったです。普段の佑はどれなのか 根本の性格を見極めないといけない。ここはもう少しテンション低くてもいいのかなとか、もっと弾けてもいいのかもとか、一つのシーンごとに監督と相談して、考えながら進めていきました。 

中川 脚本にすべてを書き込むのではなく、余白のままにしたところもあります。現場で偶然生まれるものを取り込みたいという意識もありますし、その年代が見て自然な芝居を引き出したい、という思いもありました。自分が高校生だったのは20年も前になるので、どうしても想像の世界になってしまう。リアルな年代に近いキャストたちに、自由に演じてもらいました。

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©2026映画『90メートル』製作委員会

――息子の未来を願うけれども、どうしようもなく寂しい母親の気持ち。ずっと母の元にいなくてもいい状況になったのに、どこか喜べない息子の気持ち。二人の葛藤が、表情からだけでも、ひしひしと伝わってきました。

中川 「難病」とか「介護」などの要素はありますが、大きく見ればこれは「母の子離れ」の話であるし、「子の母離れ」の話でもある。すごく普遍的なテーマなので、広くたくさんの方に共感していただけるのではないでしょうか。

  主題歌は大森元貴さんが書き下ろしてくださいましたが、この「0.2mm」という楽曲は、かつての当たり前だった親子の日常に寄り添う、とても温かみのある内容になっています。映画にとって、非常にプラスの効果が加わっていると思いますね。

山時 ちょうど10代最後の時期に撮影をしていたのですが、自分は一人じゃないんだな、いろいろな人から優しさをもらって生きているんだな、ということを思いました。

 今までもそうでしたし、これから先も一日一日を大切に、感謝しながら生きていく。そういう大人になりたいということを、この映画を通して改めて感じました。

――最後になりますが、今回中川監督は、ノベライズを発表されました。

中川 先ほども述べたように、観る人に想像の余地を残したくて、映画では意識的に情報量を少なくしています。あの時、彼や彼女は何を想い、何を考えていたのか。そんな内に秘めた心情が、ノベライズ版では書かれているので、是非、映画と小説を併せてお楽しみいただけたらと思います。

山時 僕もいただいてすぐ、一気に読みました。オリジナル脚本だったので、自分が言ったアドリブのセリフがそのまま書かれていたことが嬉しかったです。撮影時“佑”として発した言葉が監督に届いて、文字に残ったことで佑の言葉として間違えていなかったんだと自信になりました。

©2026映画『90メートル』製作委員会

映画『90メートル』[3月27日(金)より全国公開]

山時聡真 菅野美穂
南琴奈 田中偉登/西野七瀬
荻野みかん 朝井大智 藤本沙紀 オラキオ 金澤美穂 市原茉莉 少路勇介

 

監督・脚本 中川駿

 

公式HP:movie90m.com

公式X:@movie90m

90メートル (文春文庫 な 92-1)

中川 駿

文藝春秋

2026年2月4日 発売

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