約10年。『アンカット・ダイヤモンド』や『グッド・タイム』の映画監督ジョシュ・サフディは、ティモシー・シャラメと映画を作る機会を待ち続けていた。その執念が結実したのが、異色の卓球映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』だ。野心あふれる若者が卓球の世界王者を目指す物語で、シャラメは“稀代の最低男”を演じ、第83回ゴールデングローブ賞主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)に輝いた。公開を前に来日したサフディ監督が、卓球への愛情、日本を描くことへのこだわり、そしてシャラメとの仕事について語った。
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元・卓球少年が作りたかった「卓球映画」
主人公マーティ・マウザーのインスピレーション源となったのは、1940年代からアメリカで活躍した実在の卓球選手マーティ・リーズマン。彼の自伝を読んだことから映画の構想をスタートさせたサフディだが、自身も若いころから卓球が大好きだったという。
「アメリカにおいて、卓球はスポーツではなくテーブルゲームや趣味に近いと考えられていました。けれども僕は、この競技が高い集中力を必要とすることに惹かれたのです。ほかのスポーツとは異なる正確さや視覚的な認識力が求められ、音やリズムの感覚もダンスのよう。僕はADHDがありますが、卓球では『その瞬間』にとことん集中できました」
自らの卓球経験と、マーティ・リーズマンの破天荒で魅力的な人生、そして「卓球の一側面を表現した映画がまだ存在しない」という思いが、やがて『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』という作品にまとまっていった。
「オリンピックで卓球の試合を見ていると、大きな緊張と不安を感じます。テニスとは違い、卓球は選手同士の距離が極端に近く、スピードも速い。そこに生まれる緊張感が人間の感情や心理に強く訴えるのです。そういう卓球映画はまだ作られていません」
サフディが“卓球映画”として挙げるのは、窪塚洋介主演『ピンポン』(02)とアメリカのコメディ映画『燃えよ!ピンポン』(07)、そしてトム・ハンクス主演『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)だ。卓球少年だったサフディは『フォレスト・ガンプ』が大好きで、同作で卓球シーンの振付・指導を務めたディエゴ・シャーフを本作にも起用している。

