俳優ティモシー・シャラメとの出会い
舞台は1952年のニューヨーク。叔父の靴屋で働きながら卓球の世界王者を夢見るマーティ・マウザーは、夢のためなら犯罪にも手を染め、既婚者の恋人レイチェルとは不倫関係にある無軌道な若者だ。
「絶対に世界チャンピオンになる」という自信と野心、あふれるエネルギーを動力源に、さまざまな試練のなかを疾走するマーティを演じたのは、今をときめくスター俳優のティモシー・シャラメ。自己中心的でハチャメチャだが、なぜか憎めない主役像を体現し、約2時間半の長尺を引っ張った。
サフディがシャラメに注目したのは、2017年『君の名前で僕を呼んで』でシャラメの名前が広く知られる以前。同年に公開されたサフディ兄弟監督作『グッド・タイム』のイベントで、業界のエージェントから「未来のスターに会ってほしい」と紹介されたのだ。
「この世界ではよくあることです。ハリウッドでは、誰もが『ネクスト・ビッグスター』と呼ばれるものだから。だけど、彼(シャラメ)は何かが違いました。控えめでありながら、何かを証明しようとしている。確かに目の前にいるのに、この場所にいないかのよう。目に強い力がありながら、どこかジョーカーのようにも感じました」
「あの時、僕は“ティミー・シュプリーム”を見たんです」とサフディはいう。「彼は非常に意志が強く、自分のビジョンを持っていた。ほかの役者からは感じたことのないものがありました」
数カ月後、サフディは『君の名前で僕を呼んで』の上映に招かれ、「イベントで会った人とは別人だ」と演技力に驚愕した。「彼の芝居はHiFiスピーカーのよう。音で空間が広がるように感じるのと同じで、ごく小さな映画になりかねないものを、彼は演技によって拡張する。彼の演技にはスケールの大きなリアリズムがあります」

