プロvs素人、キャストの異種格闘技戦を演出する
シャラメとサフディの出会いから、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』が完成するまでには約10年を費やした。シャラメは別の映画に出演しながら、およそ7年にわたり卓球の訓練を積んだという。2人にとって、本作はそれほど悲願のプロジェクトだったのだ。
しかし、サフディは本作をティモシー・シャラメのワンマンショーにするつもりはなかった。プロの役者ではないキャストも多数起用されている本作では、ラッパーのタイラー・オコンマ(タイラー・ザ・クリエイター)や、実業家・司会者のケビン・オレアリーも強いインパクトを残す。
マーティの宿敵となる日本人選手・エンドウ役は、東京2025デフリンピック卓球男子団体で銅メダルを獲得した川口功人(トヨタ自動車)。多分野の人材をひとつのフィールドで戦わせる、まさにキャストの異種格闘技戦だ。
「撮影現場では全員に同じように接します。最初はティミーに対しても、プロではない役者と同じように接しました」とサフディ。「人はそれぞれが唯一無二の存在です。彼らが安心し、自分の意思で演じていると感じられることが目標です」
あらゆるタイプの人々と仕事をしてきた経験から、サフディは「目の前にいる相手がどんな人なのかが直感的にわかる」という。プロではないキャストには具体的な指示を与えることが多いが、プロの役者には別の方法を取るそうだ。
「ティモシーにはたったひとつの単語を言うだけで十分でした。彼はそれだけで理解し、そのシーンをまるごと変えることができる、きわめて精密なパフォーマーなのです」
サフディが大切にしているのは「全員に自由を与えること」だ。自ら試行錯誤を重ねて書き上げた脚本からさえ、俳優を解き放ちたいと考えている。
「脚本から離れることで、物語を新たな形で発見し、僕自身も驚くことができます。僕は製作のあらゆる段階で驚きたいのです」。映画にみなぎっているエネルギーは、こうした創作術によって生み出されたものだ。


