“ずっと役に立たない”ディカプリオ

王谷 そしてやっぱり主演のディカプリオがよかったですね。私はデビュー当初から全盛期まで、ほぼリアルタイムでディカプリオという現象を見てきた世代です。『バスケットボール・ダイアリーズ』(95)の頃の美少年からルックスはもちろんだいぶ変わってきたんですけど、今回久しぶりに、あの頃のディカプリオが瞬間瞬間に垣間見えた感じがしました。見た目はもうめっちゃおっさんになってるのに。そして昔からこの人はテンパってる演技がものすごく上手いと思っていたんですが、この作品ではかなりのボリュームでそれを堪能できたのが嬉しかったです。

セメント 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)のクスリをキメて這いずってワーワー言ってるところとか、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)のブチキレてるシーンとか、テンパってる時の演技がどんどん磨かれている気がします。這いずり演技が、上手すぎるんですよね。『レヴェナント』(15)でも這いずってアカデミー賞を取って、今回もセンセイの道場で這いずっている。本当にすごかったですね。

アカデミー賞授賞式にて、ベニチオ・デルトロ、ポール・トーマス・アンダーソン監督、レオナルド・ディカプリオ ©︎EPA=時事

王谷 身長も高いし、ガタイがでかいから、這いずり映えしますよね。ビルから落ちてテーザー銃で撃たれるところもすごくよかった。

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セメント ビルの上から落ちるのはスタントを使っていて、テーザー銃で撃たれるのは自分でやってるらしいです。普通の映画だったら、ビルから落ちずにうまく飛んで話が進んでいくのに、落ちちゃう。本当に役に立たないんですよね。

PTAの悪ふざけ

王谷 ずっと役には立っていない。でも、映画の中の柱の一本にお父さんがちゃんとなっている。それはPTAが群像劇とかを書きなれているせいもあるんだと思います。いろんな人がいっぱい居るというのが、そもそも好きな監督なんでしょう。

セメント 小説でも、後半になればなるほど訳が分からない人が増えていって、最終的にどんちゃん騒ぎみたいな感じで終わるんですよ。そういうところがPTAも好きなんだろうなと思いました。ただ、この映画は最後に、娘にとってディカプリオが感情的な支柱にならないとうまく落ちないから、その一点に向かって進んでいく。そこに説得力があるというのが、さすが千両役者だなと思いました。なんか納得させられる。ちょっとずるいなと思うんですけど(笑)。

王谷 ラストの娘と一緒に静かにテーブルに座っているところで、またシュッとかっこよくなるんですよね。じゃあ酒もマリファナもやめたのかなと思ったら、がんがんやってる。あそこの外した感じもよかったです。生活はそんなに変わってないけど、彼の心が変わったんだというのが伝わってくる。

レオナルド・ディカプリオ © 2025 Warner Bros. Entertainment Inc. and Domain Pictures, LLC. All Rights Reserved.

セメント しょうもないセリフをすごく真面目に言ってるところもいいですよね。「アルコールを乱用していて」と言うのかと思ったら、「クスリとアルコールを愛する者なんです」と言ったりして。PTAが悪ふざけしているんだと思いますけど、ちょっとしたところでしょうもないセリフがいちいちあって、それを全力で真面目に言う。

王谷 『ブギーナイツ』や『マグノリア』もそうですけど、PTAの特に初期の映画はしょうもないやつが山のように出てくる。だけど、そのしょうもないやつ一人一人を追っていくと、最終的にほぼ強制的に感動させられてしまう流れがあるんです。細かいセリフやちょっとしたしぐさ、着てるものやインテリアでも、生々しくしょうもない人の生活とかたたずまいを描くのがうまい。センセイの忍者道場に、なぜか日本版スーパーマンのポスターが貼ってあったりもしましたね。