バスタブの中に“結晶化した覚醒剤”が…
次に行われるのが、材料の精製と化学反応による変質だ。これには、ガラス製の器具と様々な化学薬品が必要であり、極めて慎重に行われる。微量の誤りが命取りとなり、製造者自身が重篤な障害を負う可能性がある。ガスマスクと手袋は必須だが、これだけでは完全に安全を保障することはできない。実際に前日からの雨で漏れ出た薬品の刺激臭が周囲に充満していたので、いかに危険なものを扱っているのかがわかった。
敷地内にはさまざまな素材、大きめの容器が配置されていた。大量のドラッグを短時間で製造するために設計されているもので、雑然と置かれているようでいて効率を最優先に考えられていることがわかる。
最終的には材料となる薬品の化学反応を利用した、覚醒剤の主要成分が生成される。以前、この工程では特に高度な化学的知識が必要で、少しの失敗でも致命的な結果をもたらすため密封された室内で温度や湿度管理が不可欠と聞いたことがあったのだが、オープンスペースで製造されているところを見ると、そんなわけでもなさそうだ。むしろ、発生する有毒ガスの換気の方を重視していたのかもしれない。全ては経験則から編み出されて、効率化されていった結果なのだろう。
生成された液体を冷却し結晶化させる。この結晶がいわゆる覚醒剤である。覚醒剤の値段は純度に大きく左右されるために、最終工程まで純度を上げる作業が行われる。その結果が目の前に置かれたバスタブの中にある結晶ということなのだろう。
量は数十キロにも及び、末端価格で数億円に達するという。そんな膨大な富が一瞬で奪われたことに、カルテルが黙っているはずがない。同行したFGRの隊員からも、道中で尾行していた車両があったことを知らされ、私たちは常に襲撃のリスクにさらされていることを実感した。
摘発の前に情報が漏洩していた?
私たちがこの場所に来たのは、ただ危険を味わうためではない。コカインを軸にここまで取材してきた。しかし、製造現場というのは取材するのにハードルが高いことをボリビアで体験した。だからこそ、別のドラッグであっても製造現場を見てみたいと思った。
サプライチェーンを追いかけて、麻薬ビジネスの裏に潜む真実に迫るためだった。現場ではFGRの隊員たちが各所の説明をしてくれたが、その中で最も衝撃的だったのは、彼らの内部にまでカルテルの手が及んでいるという話だった。「今回の逮捕劇はおかしいと思わないか?」と逆質問された私は、逮捕者の数が少ないことに気づいた。「主だった連中は摘発前に逃げ出していたんだ」と隊員は語り、情報が漏洩していた可能性が高いことを示唆した。カルテルはFGR内部にまで入り込んでいるのだ。
