中国の戦略家たちにとって、中東の戦火は決して「遠くの出来事」ではない。それは将来の「台湾有事」に向けた前哨戦であり、壮大なリハーサルと捉えることもできるからだ。中国は、イランの防空網がなぜ突破されたのかを徹底分析した。そして、米軍が介入する前に「数日間で既成事実をつくる」電撃戦の遂行能力や、AIによる指揮系統の自動化を急ピッチで進めている。

 さらに、アメリカが化石燃料へ回帰する隙を突き、中国はグリーンエネルギー産業で圧倒的な覇権を握ろうとしている。ここでは中国情勢に詳しい李虎男氏が著した『中国は覇権を握るのか 帝国をよみとく8つの鍵』(光文社新書)の一部を抜粋。台湾海峡と次世代産業をめぐる知られざる暗闘を紹介する。

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台湾海峡へのリハーサルから現実へ

 北京の戦略家にとって、イラン戦争の最大の意味は、それが「遠くの出来事」ではなく、将来の台湾海峡における「自分たちの物語」の前哨戦であるという点にある。北京は、イランが米軍の介入を「抑止」できなかった原因を徹底的に分析し、その失敗を繰り返さないための教訓を三つの領域で実装しようとしている。

写真はイメージ ©︎shibainu/イメージマート

 第一に、A2/AD(接近阻止・領域拒否)能力の圧倒的な量的・質的向上である。

 イランの防空網が突破された最大の要因は、電子戦における劣勢と迎撃ミサイルの精度不足だった。中国はこれを、米艦隊が台湾海峡に接近する遥か手前で、極超音速ミサイルや飽和攻撃によって無力化しなければならないという教訓として受け止めた。防御ではなく、敵が「介入を躊躇する」レベルの破壊的な拒否能力を構築することが急務となっている。

 第二に、「情報の自主権」と独自の戦域管理システムの構築である。

 米軍のAI統合戦争遂行能力に対抗するには、兵器の強化だけでは不十分だ。衛星通信から地上センサーまでを網羅する、米国のGPSやSWIFTから完全に独立した指揮命令系27統の完成が急がれている。イラン戦争で露出した米軍の電波情報を元に、独自の電子戦アルゴリズムを開発するプロセスは、台湾有事における勝敗を分ける決定的な要素となるだろう。

 第三に、「電撃戦」の遂行能力と政治的決断の速度である。

 イランの事例は、戦争が長期化するほど、米国の軍事工業基盤が本格稼働し、抵抗側の消耗が加速度的に進むことを示した。中国が台湾で勝機を見出すには、米国が介入を政治的に決定し、兵力を移動させる前に、数日間ですべての戦略目標を達成して「既成事実」を突きつける必要がある。この「決断の速度」を速めるため、人民解放軍の指揮系統はAIによる自動化をさらに進めるはずだ。