俳優の木村多江がこの3月16日に55歳の誕生日を迎えた。ドラマや映画で不幸な女性の役を頻繁に演じ、「薄幸女優」と呼ばれたことも。プライベートでは、34歳で広告会社勤務の男性と結婚し、その2年後に第1子を出産。妊娠中の撮影現場で起きた“危機”、“薄幸”イメージを脱却した作品、近年は念願のコメディ演技への挑戦を経て……。(全2回の2回目/はじめから読む

木村多江 ©時事通信社

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撮影中の妊娠と8カ月の入院生活で得た気づき

 木村多江は俳優として高い評価を得ることになる『ぐるりのこと。』(2008年公開)の撮影を終えてまもなくして、2007年の夏にはNHKの主演ドラマ『上海タイフーン』の撮影に入った。会社を辞めた女性が上海で起業するため奔走するというストーリーで、ロケも当地で行っていた。ところが、撮影中、体調がすぐれないので一時帰国した際に病院に行くと妊娠が判明し、そのまま入院となる。

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 木村としては撮影の半分が終わったところであり、すぐにでも退院して残りを撮りたかったが、担当医から切迫流産の危険があると止められた。結婚してからずっと欲しかった子供をようやく授かったとあって、無理をするわけにはいかなかった。後日、NHKのプロデューサーからも「撮影は延期しましょう。いまはとにかく体を優先させてください」と言われ、ありがたかったものの、自分のことで迷惑をかけてしまったと複雑な思いもあったという。しかし、8カ月入院しているあいだにその気持ちも変わっていく。

木村多江のインスタグラムより

《とにかく寝たきりで、窓の外の景色を見ることしかできない現状を徐々に受け入れられるようになると、だんだんこう思えてきたんです。「私が何もできないでいても、空の色は刻々と変わっていくし、毎日新しい朝がやってくる。それだけで、充分幸せなことなんだ」って。同時に、私を温かく応援してくれた周囲の方々に心からの感謝の気持ちがあふれてきました》(『CREA』2008年11月号)

大勢の男性のなかに女性1人だけで…『東京島』で見せた新境地

 翌2008年2月に無事に女児を出産した。『上海タイフーン』も、退院後、約1年ぶりに撮影を再開して同年秋に放送されるにいたった。それからというもの木村は子育てをしながら、俳優としてもますます新境地を拓いていくことになる。2010年に公開された映画『東京島』では、離島に漂着した主婦が、大勢の男性のなか女性は彼女だけという状況でたくましく生き抜くさまを演じた。