「みんながあなたを欲しがってます」と言われ…

『東京島』のロケは2009年の秋から冬にかけて沖永良部島と徳之島で行われ、木村は娘を夫の母親に預けて参加し、その間東京には一度も戻らなかった。2カ月近くも自然のなかですごすうち、自分がどんどん孤独になっていくのがわかり、《演技をしているときだけでなく、宿舎に戻っても孤独な心情は変わりません。いつの間にか、部屋に棲みついたヤモリにまで語りかけるようになっていました。でも、そういった孤独な感覚を知ることが、主人公の気持ちに近づくことだとも気づきました》という(『プレジデント』2010年9月13日号)。

映画『東京島』(2010年)

 一方で、自分の直感を信じて生きていく主人公の清子に憧れを抱いた。たとえば、男たち側が清子の夫をくじ引きで決めたいと持ちかけてきたときも、彼女は最初こそ抵抗するものの、「みんながあなたを欲しがってます」と言われた途端うれしくなって、あっさり受け入れるという具合に、気持ちの切り替えが早かった。木村は、自分もこんなふうに生きられたらいいなと思い、演じながら生きることがどんどん楽しくなっていくのを体感したという(『婦人公論』2010年9月7日号)。

50代に入ってからの挑戦

 かつて木村の代名詞のようになっていた薄幸な役もあいかわらず多かったが、このころには、最後に復讐したり一人だけ生き残ったりというふうに変化が表れていた。彼女自身、イメージが固まってしまうのはよくないと考えるようになる。そもそも俳優は50代以降は演じられる役の幅が一気に狭まってしまう仕事だという危機感もあり、40代は自分をプレゼンする期間と決め、それまでの自身のイメージを壊せる役や、新しい学びを得られる役にあえて挑戦していったという(『婦人公論』2023年7月号)。

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『忍びの家 House of Ninjas』(Netflix)で忍者を演じた(木村多江のインスタグラムより)

 たしかに50代に入ってからの出演作を見ると、彼女は確実に役の幅を広げている。一昨年(2024年)に配信が始まったNetflixのドラマシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』では忍者の役に挑んだ。アクション稽古の初日にいきなり「はい、前転して」「後転して」「側転して、はい受け身」と言われ、50代の自分にはちょっと無理かもしれないとひるんだが、やってみると意外とできたという。そうやって成長する喜びを感じることが、自信にもつながっていった。