「どちらさま? 誰かに似ているようですけれど」

 作家の村井理子さんが、認知症になった義理の母の視点で実際に起きた出来事を綴った『全員悪人』(CEメディアハウス)。昨年12月に文庫版が刊行された本作には、支えてくれるヘルパーさんやケアマネさん、家族までもを“見知らぬ悪人”として敵視してしまう認知症当事者のリアルな内面世界が映し出されている。

 ここでは、変化していく義母を近くで見守り続けた村井さんに、当事者や家族が経験する混乱や、周囲の人々を“悪人”と思い込んでしまう理由、夫の両親を介護する際にどう心の整理をつけたのかなどを詳しく伺った。(全2回の1回目)

ADVERTISEMENT

村井理子さん

◆◆◆

傍から見ると驚くことばかりで。お義母さんを主語にしたら面白いかなって

――『全員悪人』は認知症当事者の混乱や不安がリアルに伝わってくる作品でした。どうして実体験を義理のお母様の視点から描くことにしたのでしょうか。

村井理子さん(以下、村井) 理由は色々あったと思うんですけど、『全員悪人』の前に出した『兄の終い』は、私の視点で体験したことを時系列に並べていくスタイルだったので、ちょっと違うことをやってみたのが1つですね。

 書かれていることは誇張なくすべてほんとに起きたことです。間近で見ていると本当に不思議でしょうがなくて、なんでそんな解釈になるんだろうって。たとえば隣の家宛てのハガキが間違って届いただけで激怒してる。全然理解できないじゃないですか。

 でもゆっくり話を聞いていくと、こういうふうに勘違いしてこうなってるんだなってわかるんですよ。めちゃくちゃ怖い。傍から見ると驚くことばかりで。お義母さんを主語にしたら面白いかなって。

――本書の単行本発売(2021年4月)と同時期に、同じように認知症当事者の視点で描かれた映画『ファーザー』も公開(2021年5月)されてましたね。

村井 ありましたね。本当に偶然だったんですけど、『ファーザー』も途中まで何が起きているのかわからず進んでいくじゃないですか。『全員悪人』もそうなったらいいなと思って書いてましたね。

 この本で書いたのは義理の母の発症後間もない頃で、まだ普通に生活ができていました。完全に自立した状態なんだけど、決定的に何かおかしい。そのコントラストが強くて。認知症って突然始まるわけじゃなくて、長い時間かけて少しずつおかしくなってくるんですね。その過程だったからこそ、義理の母がどんなことを考えているのかがわかりやすかったんだと思います。