あとは、「そのとき」を待つだけだ

 翌年1月から、ネットで刃物について検索するなど、具体的な殺害方法を計画するようになっていく。そして、ある「凶器」を準備した。

 飼い犬の銀次がかじってボロボロになり、爪の部分が折れて壊れた孫の手が家にあった。これに近所のワンコインショップで買った刃渡り20センチくらいの穴あき文化包丁をビニール紐でくくりつけた。あかりは、包丁の黒いプラスチック製の柄の部分に孫の手の持ち手をまっすぐに合わせ、ナイロン製のヒモで何重にも固く縛った。

 包丁に孫の手の柄をつけたのは、刺したときに母の血が自分の手についたり、母の身体に手が当たらないようにするためである。

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 あかりは準備した凶器を、リビングに隣り合わせた1階和室の押し入れに隠すと、Gメールの下書き機能を使って、「一応準備だけはした」と書き込んだ。

 あとは、「そのとき」を待つだけだ。

 妙子は夜、あかりにマッサージをするよう求めるのが常だった。

 就寝する前、リビングルームに敷いた布団に横になって、30分から1時間かけて足裏からふくらはぎ、腰、背中という順番で全身を入念にマッサージさせ、最後に首を揉(も)む。マッサージが首に及ぶころには、妙子はたいがいの場合、気持ちよさそうに寝息を立てた。

 あかりは以前から、このときが最大のチャンスだと考えていた。寝入りばなであれば母は無防備で、包丁を持っても気づかれない。

 しかし、それを実行に移すことは簡単ではなかった。何度もチャンスがありながら、いざとなるとなかなか決心がつかず、母の寝顔を眺めていることしかできなかった。母が寝入ったとき、何度か顔を近づけて、本当に寝ているかを確かめたが、そのまま手を離したこともあった。