2018年3月、滋賀県守山市の河川敷で、頭部や手足のない女性の遺体が発見された。遺体は近くに住む58歳の母親で、同居する31歳の娘・あかりが死体遺棄などの容疑で逮捕され、その後殺人罪でも起訴された。9年間浪人し医学部を目指していた娘と母の異常なほど密接な関係の裏に何があったのか。
2022年の刊行から累計22万部を突破した話題作、獄中の娘との書簡をもとに描いたノンフィクション『母という呪縛 娘という牢獄』(著=齊藤彩、講談社文庫)より一部を抜粋して紹介する。(全4回の1回目/2回目に続く)
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大量のトンビが群がっていた「黄色い物体」
遺体が発見されたのは2018年3月10日、土曜日の午後1時ごろだった。
その日は3月とはいえ、まだ肌寒い朝で、前夜から降りつづいた雨が野洲川(やすがわ)南流の河川敷を濡らしていた。
下向きの巾着袋のような形をした琵琶湖の南側、袋の紐を締める位置に流れ込む野洲川は、かつて南流と北流に分かれ、とくに南流は「近江太郎」と呼ばれる暴れ川で、しばしば氾濫して流域の住民の生活をおびやかした。
戦後の高度成長期に入って南北2つの流れを合わせて琵琶湖へと導く工事が計画され、昭和56年に竣工したことで、「暴れ川」はようやく過去のものとなった。
野洲川南流の河川敷には、県営都市公園「びわこ地球市民の森」が整備され、青々とした芝やベンチに住民が集う穏やかな場所となっている。
「あれ、なんだったんだろう……」
河川敷近くに住む坂田道子(仮名)は、帰宅後も先ほど目にした光景が気になっていた。
野洲川南流の西側は1.5メートルほどの鉄製フェンスに囲われ、河川敷に藪が広がり、夏には5メートルほどの高さに達する。足元には野良猫が徘徊(はいかい)し、夕暮れには頭上をコウモリが舞う、普段は人が入らない場所である。
フェンスとフェンスの間に1ヵ所だけ、カエルの標識のついた低いバリケードがあり、その向こう側に河川敷へと下りていく小道がつくられていた。
坂田が目をとめたのは、その小道を5メートルほど下りた左側の、藪の根元あたりである。
土の中になにか黄色い大きな物体があり、大量のトンビが群がっているのが見えた。フェンス越しにのぞき込むだけでもすぐに分かるほど、近い場所である。向かい側に、ネコヤナギの樹が白い綿のような芽をつけはじめていた。
