「おい、これ、人の死体じゃないのか……」
〈動物の死骸かなにかかもしれない〉
そう思ってそのまま帰宅したが、あんなにたくさんのトンビが群がる光景を見たことがない。午後になって、友人を誘い、もう一度見に行ってみることにした。
藪の中の細道を下りていくと、「黄色い物体」を至近距離で見ることができた。
「これ、まさか……」
鼻をつくような異臭がする。頭部や手足はなかったが、物体は、人間の胴体のように見えた。昨日からの雨で、一部が地表に露出し、そこにトンビが食いついたようだった。
「おまわりさん、こっちです!」
坂田の通報を受け、滋賀県警守山警察署の警察官1名が午後1時55分、現場に到着した。坂田と友人が見守るなか、警察官はバリケードを越えて坂道を下り、物体の正体を確かめようとしたが、人間の死骸なのか、犬などの動物のものか判別できなかった。
地域警察官には、PSD(Police Station Data Terminal)と呼ばれるガラケー型の端末が配付されている。警察官はこの端末で死骸の写真を撮り、守山署に送信して指示を待ったが、写真を受け取った当直担当も、すぐには判断がつかないようだった。
「写真を確認しました。市役所に回収を依頼しますが、回収は週明けになります」
やむなく警察官はパトカーからごみ袋を取り出し、坂田の協力も得て、死骸にごみ袋をかぶせてその場を立ち去った。
3日後の13日、市役所職員2名が死骸の回収に向かったとき、かぶせていたごみ袋はめくれ上がり、中が露出する状態になっていた。
「おい、これ、人の死体じゃないのか……」
一部は白骨化しているが、これは、おそらく人間のものだ。犬や猫など動物の骨ではない──。日ごろ、さまざまな廃棄物の回収に慣れた市役所職員の通報で、ようやく事態は急展開しはじめた。
通報であらためて駆けつけた守山署員が遺骸を引き取り、検視を実施した結果、女性の人体の体幹部と判明した。
遺体は両腕が肩から、両足は付け根から切断されており、頭部もなく、胴体部分だけが放置されていた。左右の両脇の下と、両足の付け根は骨が見える状態で、わき腹部分の一部が欠損していた。市の職員が不審に思うことなく、そのまま焼却処分にしていれば、事件の発覚は大幅に遅れていたに違いない。
遺体の検視にあたった解剖医は「薬物、毒物の摂取を示唆する所見は認められず、死因は特定できない」と報告した。
