同じ意味で、多くの人は「クマは臆病だ」と言うが、これも表現として間違っている。私はいつもクマに関しては「警戒心が強い」という言い方をする。ツキノワグマもヒグマも非常に人間に対する警戒心が強い動物で、基本的には人間と出会いたくはないという願望のもとに生活している。

 そのため、基本的な対策としては鈴などを身につけて音を出し、人間の存在をクマに知らせることは共通している。クマの性格を一般的に「凶暴」とか「臆病」などと言ってしまうと、その言葉が持つ人間側の意識として、恐ろしい、弱いといったイメージを予断として持つ人が出てくる。そのため「専門家は臆病と言っていたが実は臆病ではないじゃないか」というような誤解を生んでしまう。クマは凶暴でも臆病でもなく、ときとして人間を攻撃し、普段は人間を警戒している。

写真はイメージ ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 基本的な生態、遭遇したときの対応などに関しては、少なくとも日本ではツキノワグマもヒグマも同じ認識を持っていいのではないかと私は考えている。ここまでで2種の基本的な性質を理解したところで、本書の主題であるツキノワグマに焦点を絞り、その分布と生態を詳しく見ていこう。

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クマが絶滅寸前だという地域とは?

 ツキノワグマは本州には広く分布している。一方、四国は状況が全く違う。四国にもツキノワグマが生息しているが、わかっているのは「いる」ことぐらいである。どのような生活をしているのかも、よくわからない。何頭いるのかは推定でしかないが、2016年の推定では16頭から24頭、2024年に確認できたのが最低で26頭だった。つまり、2024年の時点で26頭以上のクマが四国にいたことだけはわかっている。

 ただ、山中にカメラを仕掛け、その映像を全てチェックした上でのミニマム26頭という数字から見ると、おそらく30~40頭程度が実数ではないだろうか。日本クマネットワークによる2017年から2019年にかけての調査では、50台近くのカメラを3年にわたり山中に仕掛けても、それまで未確認であった個体は数頭しか発見できなかった(日本クマネットワーク2020)。この数は、個体群を維持することが難しい数と言える。26頭とすれば、オスとメスが半数でも13頭ずつ、中には子グマもいることを考えると、繁殖可能なオスとメスの数は極めて限られる。

 毎年、四国では繁殖の確認はできているが、そのごく限られた個体が子を産んでいる現状では今後、劇的に数が増えていくとは到底思えない。もちろん、近親交配はあると思われるが、これまでの調査では遺伝的な劣化がそこまで激しいわけではなく、むしろ近親交配の影響が出てくる前にいなくなってしまうかもしれない。そもそも満足に生息できるだけの場所が限られ、十分な広葉樹林も剣山系周辺にしか残っていない。そのため、もう分散できる場所が限られ、限定されたエリアでしか行動できなくなっている状況なのだろう。